2006年7月 1日 (土)

お薦めの本:『認知行動アプローチと臨床心理学』(金剛出版)

CBTの実践と研究のインタフェースに関心のあるサイコロジストなら,誰でも尊敬しているであろう(と,私は思っている),丹野義彦先生の新著です。

『認知行動アプローチと臨床心理学』(2006年,金剛出版)

なかなかの大作で,読み応えがありました。

本書の面白さは,ひとことで伝えるのが難しいのですが,とにかく「さまざまな角度から,心理学について学べる,再考できる」と書くとよいでしょうか。認知行動療法の最近の知見のまとめ,イギリスの認知行動療法家の仕事ぶり,なぜイギリスでは認知行動療法がさかんなのか・・・などといった認知行動療法(CBT)に関わる記載だけでも,大変勉強になるのですが,それだけではないのです。

たとえば,心理学は大学教育においてどう扱われる必要があるか,心理学のプロフェッショナルを養成するためのシステムはイギリスの場合どうなっているのか,といったサイコロジストの養成や心理学研究のあり方について,イギリスの実情が詳しく紹介されており,それはそれで勉強になりますし,大いに参考にもなります。

またちょっとした心理学史のおさらいもできます。私は本書で,「連合主義」についてあらためて学べました。

さらにCBTだけではなく,他のアプローチについてもイギリスの現状が詳しく記載されています。対象関係論のちょっとしたお勉強にもなりました。

最後に,やはり本書の素晴らしさは,丹野先生の情熱が,ひしひしと伝わってくることでしょうか。日本の臨床心理領域をもっとエビデンス・ベーストなものにしていくために,CBTを日本において正しい形で普及させるために,イギリスをモデルにしつつ,自分たちで頑張ってやっていこうではないか! という先生の熱い思いが,どの頁を読んでいてもあふれ出てくるように思われました。

以上,とりとめなく書きましたが,とにかく本書の魅力をコンパクトに伝えるのは難しい。ぜひ手にとってお読みになることをお薦めいたします。

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2006年6月 7日 (水)

お薦めの本:『医療現場におけるパーソナリティ障害』(医学書院)

  今回のお薦めの本は,林直樹先生らの新著

医療現場におけるパーソナリティ障害 ― 患者と医療スタッフのよりよい関係をめざして』(2006年,医学書院)です。

  現場におけるリアルな事例が満載で,わが身をそれこそリアルに振り返りながら一気に読めました。そしてあらためて確認できたのは非常にシンプルなことで,「クライアントさん・患者さんを大事にしたいのであれば,現場のスタッフを大事にせよ」ということであり,逆に言えば「現場のスタッフを大事にしたいのであれば,クライアントさん・患者さんを大事にせよ」ということであります。

  しかしこのようなことは,口で言うのはいとも簡単ですが,実際には様々な難問がつきまとってくるわけで,そのギリギリのラインを,林先生のさまざまな文章から学ばせてもらっているような気がします。もっと正確に言えば,「ギリギリのライン」が何なのか,それがよくわからなくなってしまうことが現場では多々ありまして,その際の判断の助けになるような考え方ややり方を,林先生の著作からはいつも教えていただいているような気がします。

  そういう意味で,本書で特に私が助けられたのは,クライアントさん・患者さんから告げられた違法行為(その計画を含む)にかんする対処法についてです。といっても,本書に具体的な指針が事細かに記載されているわけではありません。臨床家自身が自分で判断するための準拠枠のようなものが,漠と説明されているだけにすぎません。しかしそのような準拠枠こそ,まさしく私が求めていたものであり,またこのような準拠枠についてこそ,本書に限らず,林先生の立ち位置にはブレがなく,書かれていることに全面的に同意するかどうかはともかく,読む者が自分の体験を振り返りながら,しっかりと具体的に検討できるように思われるのです。

  クライアントを守り,現場で一緒に仕事をするチームスタッフを守り,自分自身を守り,その中でクライアントの回復を,それを信じながら粘り強く探っていく,という林先生の姿勢は,あちこちで散見する先生の文章から一貫して読み取れ,そして非常に勉強になります。

  ちなみに,本書以外でお薦めの,林先生のご著書といえば,

『人格障害の臨床評価と治療』(金剛出版,2002年)です。これは本当にお薦めです。認知行動療法について詳述はされていませんが,私は本書を読んで,なぜCBTがパーソナリティ障害の治療において,他のアプローチに比べると格段に行動化を惹起せずにすむのか,なぜCBTが安全なおとしどころを見つけられるのか,なぜクライアントさんが混乱せずにケースを全うできるのか・・・といったことについて,かなり整理できたように思われます。

  以上まとまりがなくなってきたので,ここらで終わりにします。

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2006年5月17日 (水)

お薦めの本:『自傷行為』(金剛出版)

試行CBTばかりでは何ですし,せっかく備忘録代わりにブログを使うのであれば,CBTに直接関係あるか否かはさておき,読んだ本のなかで,面白かったもの,今後に役立ちそうなものについては,とりあえず書きとめておこうと思います。

で,今回は『自傷行為:実証的研究と治療指針』(ウォルシュ,B.M. & ローゼン,P.M.著,松本俊彦・山口亜希子訳,金剛出版,2005年)です。

本書のよさは,いろいろとありますが,とりあえず思い出せる範囲で箇条書きにしてみると,以下のとおりです。

1.実証研究ベースで,自傷を検討していること。

2.自傷を,境界性パーソナリティ障害のリストカット等に限定せず,重篤な精神病患者や発達障害患者のそれにまで視野を広げ,定式化し,それぞれに対する対処法を実証的視点から論じていること。

3.自傷を自殺企図と概念的に区別し,実証的に検討していること。(自傷と自殺企図の両者を実施する患者さんの場合,それを分けて考えるべき必要性について,本書から明確に教わりました)

4.訳文がすばらしい。さらに訳者あとがきがすばらしい。一読の価値ありです。

自傷行為,特に青年期以上の自傷に対する治療法としては,患者さんのモチベーションや内省力によって精神分析的心理療法と認知行動療法のどちらかを適用することが推奨されていましたが,非常に納得いきました。弁証法的行動療法や問題解決療法についてほとんど触れられておらず,途中で怪訝に思って確認したら,原書は1988年に発行されていたのでした。

私が自殺企図を繰り返す患者さんに対する問題解決アプローチに関するイギリスの論文を読んで,問題解決療法に興味を抱いたのが1991年でした。その3年前に,このような充実した,エビデンスベーストな成書が出版されていたとは,恐れ入りました。(というか,単なる勉強不足?)

ともあれ,自傷や自殺に無関係に仕事をしている心理臨床系の方は,まずおられないと思います。結局はケースバイケースなのでしょうが,ひとつひとつの微妙な判断の際,少しでも判断に役立つ理論的根拠を得ておきたいという方にはお薦めです。

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