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2006年7月17日 (月)

性犯罪被害者支援研修会に参加しました(2)

臨床心理士会主催,被害者支援研修会(とくに「性犯罪被害者支援」という分科会)に参加しての感想のつづきです。

●「なぜ人間性心理学の立場か」の説明をするべきではないだろうか

分科会後半は,B先生の事例発表でした。(つまらない冗談が頻発されないだけ,私の怒りは鎮まりました。)B先生の事例は,性犯罪被害者でPTSDに陥った方に対する,年単位にわたる面接過程を示したものでした(事例についてはこれ以上詳しくここでは紹介しません)。B先生は,前記A先生と同様に,「人間性心理学の立場」に立って,臨床を行っているのだそうです。私自身,人間性心理学の立場による臨床実践がどのようなものか,よくわかっておりませんので,事例そのものについてはとくに感想や意見はなく,しいて言えば,「どんなひどい体験をしても,そこから立ち直る人間の力ってすごいなあ」という,ごくシンプルな感想を,事例に対してではなく,事例に登場したクライアントさんに対して抱きました。

私が疑問に思ったのは,この事例の内容ではなく,「なぜA先生やB先生は,人間性心理学の立場で,性犯罪被害者でPTSDに罹った人の臨床を行っているのか」ということです。PTSDの治療といえば,特にエビデンスという視点から見れば,やはりCBT(特に長時間暴露(PE))や,EMDREMDRCBTに含まれるか否かは,別の議論として重要ですが,ここではちょっと保留)の話が欠かせないと思います。とすると,CBTEMDRを使わず,人間性心理学の立場でPTSDの臨床を行うのであれば,その根拠を教えてもらいたかったのです。

私自身,PTSDの臨床経験は豊富ではなく,PEを実際に実施したこともなく,治療効果のエビデンスとは別に,実際に自分がPTSDの方を担当するとなると,「今の自分が安全にできるアプローチはどのようなものだろうか」との問いを立て,計画を立てると思います。つまり「エビデンスがあるから,絶対にPEをやるべきだ」とか,「効果の発現のありようが明確になっていないけど,とにかく効くからEMDRを実施すべきだ」などとは毛頭思っておりません。だからこそ,B先生らがあえて人間性心理学の立場からPTSDにアプローチするその根拠や効果について,きちんと説明してほしかったのです。「だったら質問タイムに訊けばいいじゃないか」というツッコミもありましょう。が,私の偏見と思い込みですが,そういう質問をしてもそれに納得のいく回答が返ってくるとはとても思えませんでした。そういう質問に対し,十分に納得できる回答が返ってくるような吟味がなされているのであれば,事例発表時にそういう話があったはずだからです。

●「感動しました!」のコメントの嵐

お二人の先生のお話の後は,フロアからコメントが出され,質疑応答が行われました。上記の私の疑問をぶつければよかったのかもしれませんが,あまり回答に期待が持てなかったのと(もしかしたら「ネガティブな結果の先取り」という認知的歪曲?),そもそもそういう批判的なことを皆の前で発言する勇気がなかったので(これは単に「すみません,私が情けない人間なんです」として言いようがありません),私はひたすら黙って,他の方々の発言を聞いていました。

コメントの多くが,事例に対して「感動しました!」というものでした。また他には,「性犯罪の加害者は絶対許せない!」とか,「自分にも娘がいるが,性犯罪だけには遭わせたくない」といったコメントも聞かれました。それぞれのコメントにこめられた思いはわかりますが,「性犯罪被害者支援研修」というアジェンダはどこに行っちゃったのでしょう?他に,参考になるコメントや質問もあり,最後の質疑応答の時間はそれなりに勉強になったやりとりもありましたが,全体的には徒労に終わった研修会参加でした。ひどくもやもやしてしまいました。

この事例も,たとえば心理臨床学会の事例研究発表で発表されるのならいいのですよ。発表聞くのにお金払わないし,そもそも抄録を見て,事前に内容について検討できますから。しかし,今回は前にも書きましたが,臨床心理士会主催の,研修ポイントが発生する,いわば会としては「公的」な研修会です。心理士会主催の研修は,「こころの健康会議」や資格認定協会主催の研修会と並んで,資格更新の際には,必ずポイントを取得しておかなければならない研修の一つです。そういう研修会の質を誰がどうやって担保するのでしょう?

・・・というわけで,ごちゃごちゃ書きましたが,日本の心理臨床の現実に直面するような体験は久々だったので,ある意味,よい体験だったのかも・・・。早々にこの領域でのポイントを取得できたし・・・。と,貴重な休日とお金を費やした体験だったので,強引にポジティブな意味を付与して,本記事終わりにします。

あーあ(笑&ため息)。

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2006年7月14日 (金)

性犯罪被害者支援研修会に参加しました

日本臨床心理士会が主催する第8回被害者支援研修会に参加するため,先週末は福岡まで行ってきました。午前中は全体の講演会。午後が4時間かけて,分科会。私が参加したのは,性犯罪被害者支援の研修会です。わが国で今年からスタートした性犯罪加害者の矯正プログラムに,認知行動療法(CBT)が正式採用され,私もそのプロジェクトにほんのちょびっと関わりがあるので,だったら被害者支援についても,「最新の知見」を入手しておきたいと考え,自腹(航空券代,ホテル代)を切って福岡まで行くことにしたわけです。今思うと,臨床心理士会主催の研修会に「最新の知見」を期待した私が馬鹿でした。今回は,この研修会,とくに分科会に参加しての,批判的感想です。

●テキスト読んで入手できる話ばかりを聞かされた(しかもPTSDについて)

分科会のタイトルは,「性犯罪被害者支援」のはずなのに,分科会前半のA先生のレクチャーは,その4分の3が(もっとかも),外傷後ストレス障害(PTSD)についてでした。しかも,PTSDの三大症状についての話を延々とするなど,要はテキストに書いてあるような話ばっかり。私が聞きたかったのは,PTSDの症状についてではなく,性犯罪の被害やその支援についてなのに・・・。そもそもそういうタイトル(アジェンダ)だったからこそ,この研修会に参加したのに・・・。たとえば,性犯罪被害に遭った人でPTSDに罹る人の割合がどのぐらいで,その違いは何か,といった話を私は聞きたかったのです。また,性犯罪被害によるPTSDの治療は,他の原因によるPTSDに対する治療と同じように考えてよいか,それとも何か別の配慮が必要か,といった話があるものと期待していたのです。(CBTではアジェンダ設定と,アジェンダに沿った話の展開を重視します。そういう話の組み立て方に慣れている私としては,アジェンダ通りにやってもらいたく,とにかくイライラしっぱなしでした。しかも,頻発される冗談がつまらない。つまらない話を聞かされると,たいてい眠くなる私でしたが,怒りで眠気も発生しない状態でした。)

臨床心理士会が主催する,研修ポイントを授与する研修会ということは,会としては公的な意味合いをもつ研修会ということです。しかも私たち参加者は8000円という決して安くない受講料を支払い,しかも日曜日に福岡まで行っているのです。そういう研修会の質がこの程度でよいのだろうか,という疑問を激しく抱きながら,気を取り直して,分科会後半の事例発表を聞きました。(この話,つづく)

※ちなみに本記事は,読む人が読めば,あるいはその気になった人が調べれば,講師の先生方のお名前が明確にわかるはずです。それはまずいことなのでしょうか?という疑問がわきましたが,日本臨床心理士会主催の研修で,いつどこで,誰が講師を務めるのか,という情報は,守秘しなければならないものであるという教示を受けたことはありませんし,個人を誹謗中傷するつもりでこのような記事を書いているつもりもありませんので,思い切ってアップすることにしました。が,万が一このような提示の仕方がまずいという見解があり,その根拠を納得できれば,本記事は削除しますし,つづきの記事(すでに下書きは済んでおりますが)も掲載しませんこと,ここに明記しておきます。

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2006年7月 1日 (土)

お薦めの本:『認知行動アプローチと臨床心理学』(金剛出版)

CBTの実践と研究のインタフェースに関心のあるサイコロジストなら,誰でも尊敬しているであろう(と,私は思っている),丹野義彦先生の新著です。

『認知行動アプローチと臨床心理学』(2006年,金剛出版)

なかなかの大作で,読み応えがありました。

本書の面白さは,ひとことで伝えるのが難しいのですが,とにかく「さまざまな角度から,心理学について学べる,再考できる」と書くとよいでしょうか。認知行動療法の最近の知見のまとめ,イギリスの認知行動療法家の仕事ぶり,なぜイギリスでは認知行動療法がさかんなのか・・・などといった認知行動療法(CBT)に関わる記載だけでも,大変勉強になるのですが,それだけではないのです。

たとえば,心理学は大学教育においてどう扱われる必要があるか,心理学のプロフェッショナルを養成するためのシステムはイギリスの場合どうなっているのか,といったサイコロジストの養成や心理学研究のあり方について,イギリスの実情が詳しく紹介されており,それはそれで勉強になりますし,大いに参考にもなります。

またちょっとした心理学史のおさらいもできます。私は本書で,「連合主義」についてあらためて学べました。

さらにCBTだけではなく,他のアプローチについてもイギリスの現状が詳しく記載されています。対象関係論のちょっとしたお勉強にもなりました。

最後に,やはり本書の素晴らしさは,丹野先生の情熱が,ひしひしと伝わってくることでしょうか。日本の臨床心理領域をもっとエビデンス・ベーストなものにしていくために,CBTを日本において正しい形で普及させるために,イギリスをモデルにしつつ,自分たちで頑張ってやっていこうではないか! という先生の熱い思いが,どの頁を読んでいてもあふれ出てくるように思われました。

以上,とりとめなく書きましたが,とにかく本書の魅力をコンパクトに伝えるのは難しい。ぜひ手にとってお読みになることをお薦めいたします。

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