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2005年11月17日 (木)

【一人でできる認知療法・認知行動療法】その10:曝露法(エクスポージャー) 技法⑤

  認知行動療法(CBT)についての記事を久しぶりに書きます。

●“心配思考”の問題点=安全確保のための回避

  俗に「心配性」とよく言われますが,心理療法やカウンセリングを受けに来る人には,自分自身の不安や心配に巻き込まれて,身動きが取れなくなってしまっている人が多くいらっしゃいます。過剰な不安や心配に陥っている人の思考の特徴は,「もし・・・だったらどうしよう」→「そうなったら,大変なことが起きるに違いない」というパターンがみられることです。

たとえば,混んだ電車内で少し息苦しくなったことに気づいたとします。普通なら,「あれ,ちょっと息苦しいな。嫌だな」と少し考えはするものの,自然に気がそれて,そのうちその息苦しさを忘れてしまうことが多いのですが,心配しすぎのAさんは,「もしこのまま息苦しさが続いたらどうしよう」→「そうなったら,息ができなくなって,呼吸困難で死んでしまうに違いない」と考えてしまうのです。

  または,人前で自己紹介をしなければならず,少し緊張したとします。普通なら,「ああ,自己紹介って緊張するから嫌だな」と少し考えはするものの,緊張しながらも何とか自己紹介を終えて,自己紹介時の緊張感については忘れてしまうことが多いのですが,心配しすぎのBさんは,「もし皆の前で自己紹介しているときに,緊張で声がうわずってしまったらどうしよう」→「そうなったら,自分が緊張していることが皆にバレて,皆から馬鹿にされてしまうに違いない」と考えてしまうのです。

  AさんもBさんも,「もし・・・だったらどうしよう」→「そうなったら,大変なことが起きるに違いない」という“心配思考”に巻き込まれています。この心配思考の問題点は,心配しすぎがその後の不適応(問題)を招く可能性が高いということです。たとえばAさんは,「息ができなくなって呼吸困難で死んでしまう」と,息苦しさについて心配しすぎたために,かえって不安緊張感が高まり,結果的に息苦しさがひどくなり,パニック発作を起こしてしまうかもしれません。その結果,今度はパニック発作を心配することによって,混んだ電車に乗れなくなってしまうかもしれません。またBさんは,「緊張して声がうわずったらどうしよう」と心配することでかえって不安緊張感が高まり,自分の声に気を取られながら自己紹介することになるでしょう。すると自分の声の小さな震えやうわずりに気づき,「ああやっぱり声がうわずった。皆に『気の小さい奴だ』と思われたに違いない」と確信し,皆とあまりしゃべったり目を合わせたりしないようにして,新しい人間関係を築くことを避けてしまうかもしれません。

つまりAさんは,自分の息苦しさを心配しすぎることによって,パニック発作を引き起こし,今度はパニック発作を心配しすぎることによって,電車に乗れないという問題に陥ってしまいましたし,Bさんは,自分の声のうわずりを心配しすぎることによって,新たな人間関係を築くチャンスをふいにしてしまったわけです。AさんとBさんに共通してみられる問題は,“安全を確保するための回避”です。Aさんは自分の身体の無事を確保するために電車を回避し,Bさんは皆から馬鹿されないという状況を確保するためにコミュニケーションを回避します。そしてこの“安全確保のための回避”によって,AさんもBさんも,かえって自分が不自由な思いをする羽目に陥ってしまうのです。

●【曝露法(エクスポージャー)】

  上で述べたように,AさんやBさんのような,過剰な“心配思考”に巻き込まれた結果,自分の安全を確保するために回避をしていて,その回避によって不自由な暮らしを余儀なくされている人は,どうしたらいいのでしょう? 素朴に考えると,選択肢は2つあるように思えます。1つ目は「心配をやめること」,2つ目は「回避をやめること」です。しかし実は1つ目の「心配をやめること」というのは落とし穴です。一見,心配さえしなければいいじゃないかという気がしますが,実はAさんもBさんも,心配をやめるために,安全確保を目指し,回避が起きているというのが真相なのです。認知行動モデルに関する基礎研究によって,「人は心配することをやめようとすればするほど,回避しつづけようとし,むしろそれがさらなる心配を生む」ということが明らかにされています。つまり上記の選択肢のうち,「心配をやめること」というのは,効果的でないどころか,もともとの心配をさらに強めてしまうという,おそろしい選択肢だったのです。

  ということは解決策はただ1つ,「心配することをやめようとせずに,回避をやめること」,すなわち「どんなに心配になっても,その心配を抱いたまま,これまで回避していた場所や場面に突入し,本来の目的を遂げること」です。これがCBTで言う曝露法(エクスポージャー)です。Aさんにとって必要な曝露法は,呼吸困難やパニック発作を心配しながら混んだ電車に乗ることであり,Bさんにとって必要な曝露法は,声がうわずったり馬鹿にされることを心配しながら皆と話をすることです。そして曝露法によるチャレンジを続けているうちに,結果的にAさんの心配もBさんの心配も軽減されていくことでしょう。言ってみれば曝露法とは,【あえて心配なままでいるうちに,気がついたら心配じゃなくなっていることを狙う逆説的な技法】であると言えましょう。「曝露」とは「さらす」という意味です。要は自分の心配を止めようとするのではなく,心配に自分のすべてを「さらしてしまえ!」という技法なのです。

●「心配→回避」の悪循環と,「曝露」のメカニズムを知ることが大事

  強迫性障害やパニック障害,社会不安障害といった,いわゆる「不安障害」に該当する障害には,この曝露法が非常に効果的であることが確かめられています。が,「言うは易し,行うは難し」で,実際に曝露法にチャレンジしてもらうためには,さまざまな臨床的工夫が必要になる場合が多くあります。しかしクライアントさんのなかには,こちらが「心配→回避」の悪循環と,「曝露」のメカニズムについて,丁寧にかつしっかりと説明するだけで(心理教育),すんなりと曝露法にチャレンジし,成果を上げることのできる人もけっこう多くいらっしゃいます。いずれにせよ曝露法を成功させるためには,自分の心配しすぎの悪循環をよく把握し,曝露のメカニズムを十分に理解するということが不可欠で,この記事が不安障害を抱えていらっしゃる人,およびそのような方を援助している人の参考になれば幸いです。(またいずれ機会があれば,もっと詳しく説明してみたいと考えています)

●今日のまとめの一言: 心配をやめるのではなく,心配な状態にあえて自分をさらし,今まで回避していた場所や場面にチャレンジするのが,CBTにおける【曝露法(エクスポージャー)】である。曝露法の効果を上げるためには,心配→回避による悪循環と曝露法のメカニズムについて,当事者が理解することが不可欠である。

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コメント

はじめまして。
エクスポージャで検索したところ、たどり着きました。

お伺いします。

私には、大きな恐怖が2つあります。
嘔吐恐怖症、失恋恐怖です。

エクスポージャで嘔吐恐怖症はなんとかなりそうですが、失恋への恐怖はどう向き合えばいいでしょうか?
エクスポージャでなんとかなるものでしょうか?


例えばこうなります。
失恋前に彼女の行動がおかしくなると、彼女の色んなことを調べようとしてしまいます。
その日は会えないと言われたら、色々勘ぐって彼女のブログやつぶやきや色々なものチェックします。

その時の自分は、もう狂人です。
息は荒く、震えが止まらず、不安で押しつぶされそうになりながら・・・
これは、彼女がもし嘘をついていたらどうしようと不安になるからです。
でも、だからといってダマされるのは嫌だから止められないのです。


でも、その時の辛さを避けたいために、できるだけ辞めようとします。


エクスポージャ的には、心配しながら疑うだけ疑ってとことんまで調べてその恐怖を克服ってことなんですか?


また失恋してからも、閉塞感に襲われ、部屋の中を走り回わったり、逃げ場が無くなるのでは、と感じてしまうのです。
更に、過去の失恋のその恐怖をまた今回も味わうことになると思うと、更に恐怖になります。

ご迷惑おかけしますがどうぞご協力お願いします。

投稿: 奥田 | 2012年5月30日 (水) 16時40分

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