« 【認知療法・認知行動療法】コラムその5:“浦河べてるの家”について ① | トップページ | 【認知療法・認知行動療法】コラムその7:“浦河べてるの家”について ③ »

2005年7月 4日 (月)

【認知療法・認知行動療法】コラムその6:“浦河べてるの家”について ②

 というわけで,“べてるの家”について,続きです。

●「べてる祭り」にも行ってみた

 2003年の夏,べてるの日常を垣間見させてもらった私は,さらにべてるの活動に興味が沸いてきました。その根底には,べてるの活動とCBTの豊かさを,何とか自分なりにもっと理解したい,自分のCBTの実践に役立てたい,ひいてはべてるを引き合いにCBTの豊かさを人に伝えたい,という私なりの(自分勝手な?)動機があるのですが。

 そこで2004年の6月には,べてるの総会(べてる祭り)にも行ってみました。この総会は年に1回開催され,全国から当事者や対人援助を専門とするボランティアや専門家が集まって,べてるの活動や全国の当事者活動について発表したり,懇親したりするものです。ちなみに昨年,べてるの総会に行こうと思い立って,そのかなり前に浦河のホテルを取ろうとしたら,どこも満室でびっくりした記憶があります。べてるの活動がその土地の商業活動にしっかり貢献しているということが,このことでよくわかりました。(結局あるビジネスホテルに「どんな部屋でもいいから」と泣きついて,1室提供してもらったので,なんとか宿泊場所は確保できました)

 べてる祭り・・・堪能しました! 当事者研究についての発表を聞くのが,私がべてる祭りに行った主目的でしたが,種々の発表や出し物全てがとても面白かったです。

 おそらくこの総会(べてる祭り)のメインイベントは,「幻覚&妄想大賞」でしょう。幻覚や妄想を体験する人は,それをひた隠しにすることが多いのですが,浦河では,それを外在化し,いかに自分の幻覚&妄想がすさまじいかということを語ることで表彰までされてしまうのです。これは究極の“リフレーミング”ではないでしょうか。(残念ながら私は帰りの飛行機の都合で,幻覚&妄想大賞の表彰式を見届けることなく,退出せざるを得なかったのですが)

●当事者研究の素晴らしさ

 さて,その「当事者研究」です。

 先日お書きした通り,私は林園子さんとべてるショップでおしゃべりした際,べてるの「自己研究」=「当事者研究」について教えてもらいました。そしてCBT的な視点から,この当事者研究にいたく興味を抱いたのです。

 べてるの家では,毎日のようにミーティングが開かれています。その一つに,同じような問題を抱えている人たちが,自分たちの問題を「自己研究」するというものがあり,そこでメンバーは自分や仲間の問題について「研究」するのです。

 その当事者研究のプロセスは,以前私が「新世代CBT」とか「第二世代CBT」とここで書いたCBTのアセスメント(ケース・フォーミュレーション)のプロセスと同様のものです。

 当事者研究は以下の手順で進められます。

自分や自分を取り巻く状況がうまくいかないのは,一体どういうことなのか?という問いを立てる

現実場面でどんなことが起きているかをモニターし,それを絵や図に描いていく。すなわち悪循環を外在化する

 モニターや外在化をするなかで,「うまくいかないとき」のパターンに気づく。悪循環を維持させているポイントに気づく

 さまざまな気づきから学んだことをさらに外在化し,それを今後に生かす

 たとえば林園子さんは,自分が幻聴に襲われたり,何かについて不安になって他人に何度も確認してしまったりすることについて自己研究しました。その結果,自分がどういうときにそうなってしまうのかに気づき,またどうすればそういう自分を自分で救い出せるかを知り,それらを循環図として外在化しました。またそのことを仲間と共有しました。その結果,問題が解消するわけではないのですが,問題が発生したとき,自分がどういう循環に巻き込まれているのか自覚することができますし,仲間も同じ循環図を頭に浮かべて林さんの問題を同じように理解することができます。すると林さん本人,あるいは周りの人が,何らかの対処法に気づき,何とか悪循環から脱け出すことができるのです。

たとえば林さんはお腹がすいているとき,自分が非常にくどくなってしまうことに気づき,それを仲間にも伝えました。その後林さんは,お気に入りのヨーグルトを冷蔵庫に予め用意し,くどくなってきたらヨーグルトを食べて自分を落ち着かせることもできるようになりました。しかしそうもできず,仲間に対してくどくなってしまったとき,誰かが「あ,林さん,きっとお腹がすいているんだ」と思って,お菓子をあげたり,カップラーメンを届けてあげたりすることで,やっぱり林さんは,くどさの悪循環から何とか脱け出すことができるようになったのです。

 林さんの当事者研究で圧巻なのは,自分のくどさを中心とした問題に「くどうくどき」と名前をつけ,キャラクター化したことでしょう。彼女は実際に「くどうくどき」君という人形を作り,それを身につけるようになりました。そして自分がくどくなった時にその人形を見て,「また,『くどうくどき』が悪さをしている」と気づき,対処法を考えることができるようになったのです。これって究極の外在化ではないでしょうか。(さらにすごいのは,「くどうくどき」人形や,林さんの「くどさの悪循環」と「くどさから脱け出す良循環」とすごろくにしたものを,販売するべてるですが・・・・私もすごろく買いました!)

  それにしても,やはり私は,“べてるの家”や“当事者研究”の魅力をここでうまく表現できません。できれば,『べてるの家の「当事者研究」』(浦河べてるの家 著,医学書院)をお読みいただければ,と思います。読み物としても面白いですし,CBT的な視点から読むこともできますし,お勧めです。これまで私は当ブログで「ひとりCBT」を提唱してきましたが,べてるの当事者研究は,いわば「みんなCBT」なのだと,本書を読んで改めて思いました。

●「問題志向」への確信

 ところで私は,セラピー(とくにCBT)とは,“協同的な問題解決の過程”であると定義づけていますが,その際,「問題」を志向すると考えるべきか,「解決」を志向すると考えるべきか(「べき」と堅苦しく考える必要はないのでしょうが,理論や研究を考える際には,このような問いも必要だと思います),実は数年間,自問自答しつづけていました。

しかし,べてるの活動を知り,実際に見学に行くなどしてその実態を目の当たりにしたことで,私のこの自問自答には一応決着がつきました。やっぱり,まずは「問題」を志向するんです! ケースによっては戦略的に「解決」を志向するという見せ方もあるでしょうが,やはり基本は「問題」を志向し,志向しつづけるなかで,おのずと対処法や解決法が見えてくる,という流れが,セラピーとしては自然だし,むしろ効果的であるということを,改めて理屈として納得するに至りました。

つまり,「どうするんだ?」ではなく,「一体,どうなっちゃっているんだ?」という問いにこだわるのです。これがCBTでいうアセスメント(ケース・フォーミュレーション)ですし,べてるの家の当事者研究なのだと思います。

  と,ここまで書いていてふと思ったのですが,ダイエットも同じなあ,と。理論的には行動療法が根底にある「体重測るだけダイエット」というのがあります。闇雲に「○○ダイエット」(○○には,「りんご」とか「ゆで卵」とか「炭水化物抜き」とかが入る)をするんではなく,ただ毎日体重を測るだけの方法です。そしてやはりこれってそれなりに効果があるのです(あくまでも「それなりに」ですが)。つまり痩せたいがゆえに「○○ダイエット」を試みるのではなく,「いったいどうなってるの?」ということを,体重を毎日モニターすることで,むしろ体重が減らないメカニズム(すなわち悪循環)に自分で気づき,あえて「○○ダイエット」といった大それたことにチャレンジしなくても,日々,小さな工夫をすることによって,気づいたらそれなりに体重が減っていた!というやり方です。これがまさに「解決志向」ではなく,「問題志向」または「問題解決志向」なんだと思います。

 べてるの家の人たちも,「べてるは問題だらけ」だと言っています。そして「問題だらけでいいじゃないか」と。これは単なる開き直りではなく(開き直りでもいいのですが・・・開き直った時点で「問題」はすでに「問題ではない」とも言えるので),「問題だらけである現状を認めようよ」という出発点を示しているのだと思います。そしてやっぱり「問題だらけである現状を認めた」時点で,その現状に対する認知はすでに変化しているとも言えるのです。

 ・・・ぐだぐだ書いていますが,やはりべてるの活動を,私が端的に表現するのは難しいです。くどいようですが,『べてるの家の「当事者研究」』(浦河べてるの家 著,医学書院)をお勧めします。(林園子さんの「くどうくどき」が乗り移ってきたか・・・???)

●今日のまとめの一言:“浦河べてるの家”の当事者研究は,究極の「ひとりCBT」ならぬ「みんなCBT」である。そしてべてるの家の当事者研究は,「問題志向」の重要性を示すものでもある。

|

« 【認知療法・認知行動療法】コラムその5:“浦河べてるの家”について ① | トップページ | 【認知療法・認知行動療法】コラムその7:“浦河べてるの家”について ③ »

コメント

 coping様、たびたび、お邪魔してます。
 いや、とてもおもしろいです。精神医療に長く携わったことはないのですが、べてるの家の噂は耳にしていたので、その一端に触れることができてよかったです。
 とても魅力的なところですね。いつか行ってこの目で見てみたいと思いましたよ。また、続報があったらお願いします。
 問題志向/解決志向という最近のトピックについても示唆的です。僕もずっと実践しながら考えてきたテーマなので、いつかトライしてみたいと思います。
 また、CBT的な問題志向と世間常識的な問題志向(つまり問題にネガティブ・リフレイムをするような原因志向の考え方)との区別、あるいはつなげ方について知ってみたいと思いました。
 これからも、おもしろくてタメになるCBTをお願いします(でも、お互い更新ストレスにならないようにしましょうね)。
 

投稿: アド仙人 | 2005年7月 4日 (月) 23時38分

アド仙人様
 こちらこそ示唆に富むコメントありがとうございます。「世間常識的な問題志向」が「ネガティブ・リフレイム」であることを,自分がすっかり忘れていることに気づきました。唐突に「問題」という言葉を出すと,ビクッとされるクライアントさんがいらっしゃいますが,こういうことだったのですね。危ない危ない・・・>自分。
 べてるの家の活動には,本当にワクワクします。そのワクワクがうまく伝えられずにもどかしい思いを抱きつづけているのですが,アド仙人さんに伝わったようで,それがとても嬉しいです!
 「更新ストレス」・・・ちょっとあります(笑)。が,最近アド様の更新のスピードが増しているような・・・。すごいなあ。でも気にしないようにしよう>自分。

投稿: coping | 2005年7月 6日 (水) 00時02分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 【認知療法・認知行動療法】コラムその6:“浦河べてるの家”について ②:

« 【認知療法・認知行動療法】コラムその5:“浦河べてるの家”について ① | トップページ | 【認知療法・認知行動療法】コラムその7:“浦河べてるの家”について ③ »