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2005年6月20日 (月)

【一人でできる認知療法・認知行動療法】その5:事前にサポート資源を確保しよう

CBTの副作用(?): 専門家が実施する場合の注意点

  「認知療法・認知行動療法(CBT)の副作用は?」という質問をときどき受けることがあります。CBT全体としてどのような副作用があるか,ということについては,実ははっきりとはわかっていません。私見としては,CBTが特に重篤な問題を引き起こすことはないと思いますが,個別のケースにおいては,安全にCBTを進めていくべく注意を払う必要があるとは思います。たとえばクライアントさんが,ホームワークを強迫的にやりすぎてしまう場合には,ホームワークの設定の仕方に注意するといったことです。

  セラピストがクライアントさんと行うCBTがうまくいかない事例をときどき見聞きしますが,それはCBTの問題ではなく,CBTの適用の仕方の問題であることが多いと思います。とくに初心者は,アセスメント(事例定式化)や目標設定を丁寧に行わずに,いきなり技法を提示してしまい,ケースが行き詰ってしまうことが多いようです。かくいう私も,いまだにうまくいかないことがあり,検討してみると,やはりCBTの問題ではなく,私自身のCBTの運用の仕方が良くなかったと反省することがあります。私を含め専門家は,とにかく日々の訓練を怠らず,クライアントさんに役立つようにCBTを実践できる力をつけるしかありません。

  しかし今日ここでお伝えしたいのは,CBTの適用・運用についてではなく,CBTの背景にある思想に関わるようなことについての注意点です。CBTを学び,実践し,世に広めたい私ではありますが,だからこそ常に心に留めておきたいと自戒していることでもあります。

CBTの弊害(?): 「考え方さえ変えればよい」という考えの危険性

  それは「考え方(と行動の仕方)さえ変えればよい」という考え方です。CBTはその名のとおり,個人の認知と行動に働きかけるセラピーです。もちろん,その人が自分のストレスを維持させている認知と行動を,よりよい方向に修正するためのスキルを身につけることはとても役に立ちます。が,ちょっと間違えばCBTの発想は,「とにかくその人が自分の認知と行動を変えればよい」という発想に結びついてしまいがちです。これはとても危険なことだと思います。

  当然のことですが,私たちは一人きりで生きているわけではありません。ストレスは,必ずある状況におけるさまざまな外的要因と複雑に関連しています。特にその人が属する社会や組織のあり方や,その人をとりまく人間関係と,その人のストレスは密接に関わっています。したがって,そのような関わりにおいてストレスを感じてつらい思いをしている当事者だけに,対処のための努力を求めるというのは,場合によってはむしろ逆効果になることがあります。

  当事者をとりまく状況や人間関係があまりにもストレスフルな場合は,むしろその状況や人間関係の調整を先にするべきですし,そうしなければ,本人がいくら頑張っても状態が良くならず,いつかその頑張りに疲れ果ててしまう,ということが起こりかねません。

  私は現場でCBTを日々実施しておりますが,その方をとりまく状況や人間関係が,その方の回復のためにうまく機能していない場合は,先にそちらを調整するようにしています。そしてその方が安心してCBTに取り組める環境がある程度整ったら,当事者との本格的なCBTを開始します(広義のCBTとしては,このような環境調整も含まれると思いますが)。

たとえばうつ病のクライアントさんと一緒に暮らすご家族の方々に,もう少し病気やその治療について知っていただくことで,家族のサポートが向上しそうだということであれば,ご家族と心理教育的な面接をして,クライアントさんに対するサポートを依頼します。これもケースによりますが,1度でもそのような環境調整のためのセッションを設けることで,サポート環境が改善し,クライアントさんの状態が少し良くなったり,安心してCBTに取り組めるようになることは,よくあることです。「家族なんか助けにならない」というクライアントさんの認知を直接扱うよりも,実際にご家族のサポート力が上がることで,クライアントさんが「少しは自分の家族も助けになるんだ」と結果的に思えるようになるほうが,むしろ望ましいことだと私は思います。

  ※余談ですが,以前私は数年間,企業のメンタルヘルス活動に直接携わったことがあります。たとえば異動や配転がらみで抑うつ症状などが発生し,当事者が再異動を希望する場合には,人事と相談して,当事者の望みをかなえる方向で,再度調整をするといったケースがかなりありました。そのようなケースの予後は,おおむね極めて良好でした。合わない環境で本人につらい努力を要請するよりも,関係者の協力を得て環境調整するほうが,結果的にはコストもかからないし,皆がハッピーになるというケースが多くあることを改めて実感しました。そういう意味では,個人のストレス対処能力にばかり責任を持たせるような風潮が,最近見られなくもないですが,あまり望ましいこととは思えません。CBTがその片棒をかつがせられないよう,注意しなければなりません。

●一人で頑張る前に,サポート体制をととのえよう

  そこで「ひとりCBT」を行う人にお願いがあります。一人で頑張ってCBTを身につけることは大変素晴らしいことだと思いますが,その前に,できるだけご自分をサポートしてくれる人(サポート資源)をみつけ,自分をとりまくサポート体制(サポート環境)を整えておきましょう。100%自分を理解してサポートしてくれる人でなくても構いません。「このことについては,この人に相談できる」,「この件については,この人が話を聞いてくれる」,「このことについて困ったら,この人にアドバイスしてもらおう」というように,少しでも自分を手助けしてくれそうな人を見つけておき,できれば紙に書き出しておくと良いでしょう。その際,ネットにおける匿名の関わりもうまく使うと良いでしょう。私たち専門家も,そんなふうにサポート体制の一部として,うまく使っていただけたらと思います。

  こんなふうにできるだけサポート体制を整えてから,「ひとりCBT」を開始してみていただきたいのです。専門家と一緒に行うCBTであれ,「ひとりCBT」であれ,そんなにスイスイとスムースに進むことはなく,ときには行き詰まりを感じることもあるでしょう。そんなとき,「やっぱり自分は駄目なんだ」と一人で嘆くのではなく,その行き詰まりについて誰かに話せたり,アドバイスをもらえたりすれば,また気を取り直して「ひとりCBT」にチャレンジする気になれるかもしれません。たとえ直接的なアドバイスをもらえなくても,「ひとりCBTに挑戦しているんだけど,なかなか進まない」といった愚痴を,誰かに聞いてもらえるだけで,ちょっとした助けにはなるはずです。

  そしてこのブログも,「ひとりCBT」のささやかなサポートになれば,さらに嬉しく思います。

●今日のまとめの一言:誰かと話をしたり,誰かが自分を理解しようとしてくれたり手助けしてくれたり・・・といった人との関わりのなかで,私たちは暮らしている。CBTはセルフヘルプ促進を手助けするものだが,「ひとりCBT」を一人で頑張ってやる前に,できるだけ周囲の人たちにサポートしてもらうことを考えよう。

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コメント

 なるほど、「治療外要因」ってやつですね。これの治療への寄与が確か40%だったかな(スコット・ミラー「治療不能事例の心理療法」金剛出版)。一番大きな要因でした。
 サポート資源をどう整えるかは、子どもの臨床をやっていても当然出てきます。なかなか大変ですけど。
 何事も、下ごしらえをちゃんとしないといけませんね。

投稿: アド仙人 | 2005年6月23日 (木) 00時07分

治療外要因を,いかに治療に活用するか,という視点を忘れずにいたいですよね。セラピーの時間なんて,生活時間のほんの一部なのですから。そういう発想から,CBTではホームワークを重視しているんだと思います。
ちなみにスコット・ミラーは,治療技法の関与率について,「わずか15%」とその数値の低さを強調しているように私には読めますが,15%って,かなり大きな数字だと思いますけど,いかがでしょうか?仮に今私が100万円持っていて,誰かに「15万円くれ」と言われても,絶対にあげませんもの(笑)。(1500円でもあげないかも。知り合いなら,150円くらいならあげてもいいかも・・・)

投稿: coping | 2005年6月23日 (木) 18時18分

 そう!実は、僕もそう思っていたのです。技法もけっこうバカにできないではないか、と。隠し味どころではないですよね。適切な技法選択が必要だと思いました。
 きっと多くのセラピストは、自分の技法が70とか80%とかすごい影響をしていると思っているのでしょうか。スコット・ミラーはそういう「思い上がり」を相対化したかったのかな。
 僕の場合なんかどうだろう、知りたくないような・・・。

投稿: アド仙人 | 2005年6月23日 (木) 23時49分

この記事内容のCBTの弊害の部分は、現場で実践を
行う際にとても重要になってくる部分ですよね。例えば
不登校で学校復帰を目標にしても、学校でいじめが
あってそれに巻き込まれたら、その子は学校復帰をし
ないで適応指導教室とか他のリソースを活用するほう
がよい結果を生じるかもしれない。

ただ単に技法を適用するのでなく、こうした背景情報
を十分に吟味して、当たり前だけれど、Clさんにとって
もっとも望ましい方向性を考えて調整していく、
というのが大事なんでしょうね。こういうのをしっかり
解説してある本ってあるのかなあ・・・

投稿: izugaeru | 2005年6月24日 (金) 13時08分

izugaeru様
コメントありがとうございます。「こういうのをしっかり解説してある本」は,すぐに思い浮かびませんが,CBTの基本モデル(状況と個人の相互作用,認知・行動・気分・身体の相互作用・・・すなわち二重に相互作用を見ていくモデル)を実施者が忘れないように気をつけることだと思います。
あるいは,ストレス理論における生物-心理-社会モデルやソーシャルサポートに関する理論を併せて考えるようにすれば大丈夫かなあ,とも思います。
そういった広い視点からCBTを論じる本が,そろそろ出てきても良いのかもしれませんね。

投稿: coping | 2005年6月24日 (金) 17時29分

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