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2005年6月 7日 (火)

【一人でできる認知療法・認知行動療法】その4:“ひとりCBT”に適した本(応用編・抑うつ以外の問題への対応)

  入門と抑うつ対象以外の,「ひとりCBT」(一人でやる認知療法・認知行動療法)の参考書について簡単にご紹介します。どれもさほど高い本ではないので,興味を持った方は実物を入手していただければと思います。

デニス・グリーンバーガー&クリスティーン・パデスキー 『うつと不安の認知療法練習帳』 (創元社,2001年,1890円)

  うつ病だけでなく,不安障害(とくにパニック障害)についても十分に記載されてあるCBTの自習用テキスト。非常にわかりやすく,ワークシート等も充実しています。CBTを受けにくるクライアントさんのなかでも,「この本を読んだ」という方は多くいらっしゃいます。

  ただし本書を読んだ方が,その後CBTを受けにいらっしゃるケースがわりと多いというのはどういうことか,とふと考えてしまいます。(もちろん本書を上手に使ってセルフヘルプされる方は,CBTを受けにはいらっしゃらないので,実態はよくわかりませんが・・・) そこでアマゾンの本書のレビューを見たら,「この書は、心理療法というカテゴリーでくくられているために、一般の人たちにはあまり使われないだろうが、「うつ」でない人間にも十分に役立つ。他者との共同生活を十分に営むためのノウハウが、書き込まれているのである」といった記載を見つけました。

  やはりそれなりに内容が濃く,ボリュームもあるので,具合の悪い人が取り組むよりは,本書も『いやな気分よさようなら』と同様に,健康な人がセルフヘルプのために活用するというのが適当なのかもしれません。ちなみに私がクライアントさんとCBTを行う際,副教材として一般書を薦める場合があります。以前は,『いやな気分よさようなら』か,本書『うつと不安の認知療法練習帳』を勧めていましたが,今は,大野先生の『こころが晴れるノート』に絞っています。やはり調子の良くない人には,やや負担になる内容と分量だと思います。その意味では,大野先生の本を終えた方や,専門家とのCBTを終えた方が,仕上げとさらなる応用のために本書を参考にするのが良いのではないかと思います

  ※余談ですが,本書は,CBTについて偏見を持っている臨床家(とくに臨床心理士)にこそ入門書として読んでいただくと良いかもしれません。CBTの基本モデルについてばっちり説明されていますし,“認知再構成法をクライアントさんにやらせて「歪んだ認知を修正する」ことを目的とするのが認知療法ではない”ということが,本書を通じてご理解いただけるかと思いますので。(毒のある文面だったらすみません。「認知療法=クライアントの認知の歪みを矯正する強引な療法」という誤解が,臨床心理士業界では結構はびこっているんです)

ギャビン・アンドリュース 『不安障害の認知行動療法 (1) パニック障害と広場恐怖 患者さん向けマニュアル』 (星和書店,2003年,1050円)

ギャビン・アンドリュース 『不安障害の認知行動療法 (2) 社会恐怖 患者さん向けマニュアル』 (星和書店,2003年,1050円)

ギャビン・アンドリュース 『不安障害の認知行動療法 (3) 強迫性障害とPTSD 患者さん向けマニュアル』 (星和書店,2005年,1050円)

  今回は,この3冊を紹介するのが主眼だといっても過言ではありません。著者はオーストラリアで,CBTの臨床と研究をバリバリにやっておられるプロフェッショナルです。「エビデンス(証拠・実証)に基づく精神医学」を世界に先駆けて提唱された方でもあります。

この3冊はすべて「患者さん向けマニュアル」として出版されています。(1)がパニック障害に特化した参考書,(2)が社会恐怖(社会不安障害)に特化した参考書,(3)が強迫性障害(OCD)と外傷後ストレス障害(PTSD)に特化した参考書です。3分冊になって,各1050円というのも良心的だと思います。これまでに出版された当事者向けのCBTのマニュアルは,ほとんどが“うつ”に焦点を当てたものでした。たとえその他の症状について説明がされていても,「うつのおまけ」といった感が拭えませんでした。が,この3冊は不安障害にばっちり焦点を当てています。さらにその内容は,今世紀に入ってからのエビデンスを最大限に活かしたものであり,非常に信頼できます。

  “うつ”に焦点を当ててCBTを解説するとなると,どうしても“認知再構成法”(いわゆる“コラム法”)がメインの技法として紹介されがちです。でも,CBTをきちんと学び実践している臨床家なら誰でも知っているとおり,不安障害の患者さん・クライアントさんに,認知再構成法を第一選択として適用するということは,あまりありません。不安障害の場合,自動思考ばかりに目を向けるよりも,心理教育をしっかり行ったり,段階的曝露法を実施したり,呼吸コントロールなどで不安をマネジメントしたり,ロールプレイによるリハーサルを行ったりすることで,その人なりの不安克服パッケージを作り上げていくほうが,よほど役に立つことが多いですし,実際にそのようなエビデンスが出ています。認知再構成法を実施することもありますが,それは複数の技法によるパッケージの一部であるに過ぎません。

  というわけで,うつ病や抑うつ症状ではなく,むしろ不安や不安による回避(自分が不安になりそうな場所や状況を避ける)が問題になっている方の場合は,上の②,③,④のどれかをお勧めします。不安による回避を克服するためには,「曝露法」が不可欠ですが,曝露法とはどういうものか,なぜ曝露法が必要なのかといったことについても,きちんと説明されています。

  ちなみに同様のタイトルで治療者向けのテキストが出版されていますが,やはり非常に勉強になります。患者さん向けマニュアルでこのような高度なものが出版されている以上,治療者は「知らなかった」では済まされないのではないか?というのが私の考えです。

飯倉康郎 『強迫性障害の治療ガイド』 (二瓶社,1999年,840円)

  不安障害のなかでも,強迫性障害(以前は「強迫神経症」と呼ばれていた症状,病気。症状としては,手についたばい菌によって病気になるのを恐れて手を洗い続けてしまうとか,侵入者が怖くて何度も戸締りを確認してしまうとか・・・)について,当事者向けに作成されたテキストです。

  強迫性障害のCBTでは,「いかに患者さん・クライアントさんに“曝露反応妨害法”を実施する気になってもらうか」,というのがポイントだと思います。「曝露法がありますよ。やってみましょうよ」とセラピストに言われて,「ああ,そうですか。ぜひやってみます!」などと言って曝露法にチャレンジするクライアントさんはいるはずもなく(その程度の教示で曝露できる人であれば,治療など受けに来ない),曝露法が必要だとわかってはいるのだけれども,どうしたらよいのかわからずに途方に暮れているクライアントさんに,気持ちよく曝露法にトライしていただく,というのがセラピストの仕事なのです。

  強迫性障害といっても,その症状の軽重や複雑性はさまざまです。かなり症状がこじれてしまっていたり長引いたり深刻化してしまっていたりする場合は,やはり自己治療ではなく,専門家によるきちんとした治療を受けたほうがよほど効率的だと思います。が,そこまで深刻でない症状(強迫的な症状はたしかにあるが,日常生活はギリギリ保たれている)であれば,上の④か本書(⑤)を読んで,まず自己治療にトライしてみるのも「あり」ではないかと思います。特に強迫的な症状がシンプルであまり広がりすぎていない場合は(たとえば不潔恐怖によって手洗いばかりする,といったように症状が限られているということ),この⑤の本をお勧めします。強迫性障害について,そして曝露反応妨害法について,非常にわかりやすく書かれており,「あ,自分の症状ってこういうことだったんだ」と理解しやすいと思います。自分の症状を理解することは回復への第一歩です。そして自分なりの曝露法の計画も,本書に沿って作業を進めていけば,立てることが可能だと思います

リリー・ワイス 食べたい!でもやせたい過食症の認知行動療法』 (星和書店,1991年,2447円)

  CBTは摂食障害のなかでも,特に過食症には効果が高いとされています。私自身の臨床経験からも,うまく導入できれば,自分で何とかしたいと思っている過食症の方は,CBTを使って回復することが十分可能だと思います(もちろんケースバイケースですが)。

  過食症のCBTについては,一応本書をお勧めします。この本がかなり役立ったというクライアントさんもいらっしゃいます。しかしこの本だけで過食症を自分で克服したという方の話を私は聞いたことがありません。したがって本書については,一応「こういう本がありますよ」程度に提示するに留めたいと思います。

ジュディス・ベック 『認知療法実践ガイド・基礎から応用まで: ジュディス・ベックの認知療法テキスト』 (星和書店,2004年,4095円)

  実はこれは治療者向けのガイドブックです。しかし私は当事者が本書を読んでも面白いし,役に立つのではないかと思います。というのも,本書は技法そのものではなく,セラピストとクライアントの「対話」に焦点を当てているからです。

前に当ブログでも書いたとおり,CBTで目指しているのは,セラピストとクライアントの「2人対話」を通じて,クライアントが上手に「1人対話」できるようになることです。本書に紹介されている豊富な対話例を読み,それをモデルとして,そのような対話を自分自身と行なうことを目指していただくと良いのではないかと考えます。

  また本書は,CBTのセッションが実際にどのように進められるかということについても詳しく述べられています。CBTを専門家に受けようとする方,あるいは「ひとりCBT」をおやりになる方も,「どのような技法を習得すべきか」ということと同時に,「CBTはどのように進められるのか」ということを知っておくことは,非常に有用だと思います。新しいことを身につける際は何でもそうですが,「何を学ぶか」ということと同時に「どうやって学ぶか」ということを知らなければ,よりよく学ぶことはできないからです。

  ※またまた余談です。本書は専門家向けテキストですが,私は本書に限らず,当事者(ユーザーさん,クライアントさん)およびその関係者が,CBTの専門書をお読みになるのはとてもよいことだと考えます。CBTは「手の内を明かすセラピー」です。そして「セラピストとクライアントが協同作業をするセラピー」です。としたら,可能であれば,クライアントさん自身にもCBTについて詳しく勉強していただくほうが,効率的ですしより高い効果を期待できるのではないかと思います。

  とりとめがなくなってきたので,この辺で終わりにします。2回にわたって当事者の方々用の書籍を紹介しました。しかし人それぞれのニーズや好みがおありでしょうから,できればネットや書店で調べて,自分に合いそうな本を自分で選んでいただけたらと思います。

●今日のまとめの一言: 不安障害の場合,認知再構成法以外にも多くの技法が役に立つことを,当事者の方々にも知っておいていただきたい。またCBTは「手の内を明かすセラピー」であるので,可能であれば,当事者の方々にも専門家向けのテキストをどんどん読んでいただきたい。

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コメント

「こころが晴れるノート」は僕も使っていました!わかりやすくて、薄くて、安くて、患者さんには確かに負担が少なくていいとな思っていました。
 他のも書店で立ち読みした本ばかりで、今度は真面目に買いたいと思います(^_^;)。
 それからトラックバックをありがとうございました。励みになります。がんばっていきましょう。
 トラックバックとか耳慣れない機能を使うのは、どうしても気後れ、尻込みをしてしまいます。若い人はどんどん使いこなして、ネットでの世界を広げててすごいなと思います・・・なんて最近オヤジ化著しい僕です。これって認知の歪みかなあ(笑)。
 

投稿: アド仙人 | 2005年6月 7日 (火) 22時33分

アド仙人様
 いつもありがとうございます。慣れない機能を使うのに尻込みしてしまうのは私も同じです。(きっとCBTを始めて,いろいろな新しい考えやスキルに直面するクライアントさんも同じなのだろうなあ,と思います)
 私も若い人を「すごいなあ」と思いますし,それに対して自分は,新しいことを目前にすると「面倒くさいなあ」という自動思考が即,沸いてきますが,それによって激しく落ち込むわけではないので,「かろうじて適応的な思考である」と判断hしてもよいのでは・・・限りなく自己弁護に近いですが(笑)。

投稿: coping | 2005年6月 8日 (水) 10時04分

coping様
今回の記事も、大変参考になりました。
『うつと不安の認知療法練習法』も、実は買ったのですが、読まずにしまってしまいました。
coping様が「入門編・抑うつ編」で書かれていた本を読んで、自分の好みの理論だということがわかり、気持ちが楽になってきたので“もういいや”と思ってしまいました。あと、ちょっと厚い本なので読む気力がわかなかったというのもあります。
でも、今の状態は単に不安の原因から逃げているだけで、根本的な改善に至っている訳ではないと思います。もう一度tryしてみようかなと思いました。
ギャビン・アンドリュースの不安障害の本は、治療者向けの本もあわせて、地元の図書館にありました。田舎なのに信じられません!一度借りてみて、よかったら低価格なので買いたいと思います。貴重な情報を頂き、どうも有り難うございました。
私はソーシャルスキルトレーニングを受けられればいいのになといつも思っていました。人としゃべったり付き合ったりするリハーサルをするのです。擬似友達という存在があったらいいな、とも。
認知療法の本から派生して鬱関係の本もいくつか読みましたが、呼吸法やヨガなどもよい、と書いてあったので、試したいと思っています。社会不安、対人不安などにも効果があるでしょうか。
自分で本にあった、鬱の尺度(?)をはかったところでは結構高い得点になるのですが、医者は私を鬱とはいいませんでした。あの尺度は信頼性があるのでしょうか。
とりとめもないことばかりで申し訳ありませんでした。認知療法とは離れた話になってしまいましたので、お答えいただけなくてもかまいません。ありがとうございました。

投稿: すみれ | 2005年6月11日 (土) 01時02分

すみれ様
 こんにちは。コメントありがとうございます。
 本はどうしても好みがありますから(それに「好み」が一番大事かもしれまんせん),ご自分の感覚を一番大切にしていただければと思います。アンドリュースの本が図書館にあるのはラッキーでしたね。アンドリュースの本は事例などはほとんど記載されてないので,やはり好みが分かれるところだと思います。よければ感想などお聞かせくださいね。
 ソーシャルスキルトレーニングは,はまればとても有益な技法だと思いますが,実際にトレーニングを受けられる機関は限られていると思います(CBTでさえこれほど限られているのですからいわんや,という感じですね)。でも相手がいなくても,自分でシナリオを作ってイメージトレーニングすることも不可能ではありません。
 呼吸法やヨガなどのリラクセーションは,正しく行なえばどんな人にも役に立つ技法だと思います。私自身も実践しています。
 うつの尺度は,どの本に掲載されていたものですか?認知療法関連の本に記載されているのであれば,いずれにせよどれもほどほどに信頼性,妥当性はあると考えて良いと思いますが,「抑うつ症状」と「うつ病」はイコールではありませんので,すみませんがこれ以上具体的にはお書きできません。ただ「結構高い得点」であるということは,うつ病か否かは別として,ご自分が結構つらい心理状態にあるのだと判断しても良いようには思います。
 以上,こちらもとりとめなくご返事をお書きしましたが今後も遠慮なくコメントいただけると嬉しいです。ではでは!

投稿: coping | 2005年6月12日 (日) 22時58分

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