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2005年6月 3日 (金)

【一人でできる認知療法・認知行動療法】その3:“ひとりCBT”に適した本(入門編・抑うつ編)

  認知療法・認知行動療法を一人で練習する際に(以下,「ひとりCBT」と表記),役立ちそうな本をいくつか挙げ,その活用の仕方について書いてみます。今日はまず,“入門編・抑うつ編”として,3冊をご紹介します。(例によってこれは筆者の私見によるものです。CBTの自習本は現在他にもたくさん出版されており,私が紹介する以外の本がむしろ「お役立ち」であると考える人もいらっしゃることでしょう。ぜひコメントをお寄せいただけたら幸いです)。

①大野裕 『こころが晴れるノート:うつと不安の認知療法自習帳』 (創元社,2003年,1260円)

 

  「認知療法・認知行動療法(CBT)について興味があるけれども,具体的にはよくわからない。でも一度体験してみたい」という方には,まず本書がお勧めです。CBTの理論に興味があるのではなく,「実際にやってみたい」「スキルを身につけたい」という方には,特に向いているでしょう。

  値段も手ごろですし,内容もとてもシンプルでわかりやすいです。活字を読む元気がないという方でも,この程度のボリュームなら,何とか読み進められるのではないでしょうか? 

しかし注意点が一つ。必ずワークシートを使って「書く作業」を行ってください。わかりやすくて薄い本であるだけに,“さささ~と読んでおしまい”にすると,せっかくの本書の効果があまり得られません。ワークシートはとても使いやすい形で提示されています。本に直接書き込むのではなく,未記入のワークシートを何枚もコピーしておき,そちらに書き込んで練習を続けましょう。このブログでも前述したとおり,CBTは,ツールを使って頭の中の認知や自分の体験したことを“外在化”する作業が非常に重要です。本書は,「読むための本」ではなく「練習するための本」なのです。ただ読むだけなら本書は1日あれば十分ですが,ここに提示されているスキルを実践して身につけるためには,何度も何度も繰り返し練習することが必要です。

そして前にも書きましたが,一気に進めるのではなく,少しずつ進めていくほうが効果的です。本書は薄くて読みやすいからこそ,「一気に読んで,練習してみたい」という誘惑にかられるかもしれませんが,たとえば「1週間につき,1つのモジュール」(注:本書ではそれぞれの技法を「モジュール」として紹介されています)というふうに事前にペースを決めて,一つ一つの技法を着実に身につけて先に進むようにしていただきたいと思います。

②井上和臣 『心のつぶやきがあなたを変える:認知療法自習マニュアル』 (星和書店,1997年,1995円)

  ベックの認知療法,とくに認知再構成法(いわゆるコラム法,非機能的思考記録法)について,その理論と手順を丁寧に解説している本です。認知再構成法においてポイントとなるのが,自動思考について理解し,自分の自動思考をその場で同定できるようになることですが,本書は自動思考を「心のつぶやき」と呼び,その説明や同定の仕方について非常にわかりやすく説明してくれます。

  前に私は「“認知療法=認知再構成法”というのは誤解だ」と書きました。しかし,正しく習得されれば,認知再構成法は,CBTの諸技法のなかでも非常に効果の高い強力な技法であることは間違いありません。とくに様々な出来事や人とのかかわりにおいて,否定的なことを考えやすく,それによってネガティブな気分を抱いたり,やろうとしていることができなくなってしまっているような方には,やはりお勧めの技法です。

  本書は認知再構成法の背景にある認知理論について解説した上で,認知再構成法における手順に沿って段階的に紹介していますので,「読む→理解する→練習する」というやり方を好む人には,ちょうど良いのではないかと思います。ただしこの本に紹介されているワークシートは,大野先生の①の本とは異なり,そのまま書き込んで使うことはやりづらいかと思われますので,ノートを1冊,あらかじめ用意してから取り掛かるとよいでしょう。またやはりこれについても,「1週間に1章分進める」といった計画を立てて,少しずつ学習を進めていただくと良いでしょう。

③デーヴィド・バーンズ 『いやな気分よさようなら:自分で学ぶ「抑うつ」克服法』 (星和書店,2004年,3864円)

  分厚い本ですが,根強いファンが大勢いるようです。これは現在具合が悪いという方にはあまりお勧めしません。なにしろ分厚くて内容が盛りだくさんですから(笑)。実際に「買ったけど,とても読みきれなかった」,「その分厚さに最初からめげてしまった」というクライアントさんの実際の声も聞きます。

しかし,認知再構成法だけではなく,多種多様な小技法がたくさん紹介されていますし,その内容もかなり具体的ですので,うまく活用できればかなりの効果を上げられる本であるとも思います。

  使い方としては,最初からじっくりと読み進めるというよりは,パラパラとめくってみて,「あ,この技法は面白そう」,「これだったらやってみたい」というのを見つけて,実際に練習してみる,というやり方で良いと思います。本書に掲載されている技法をすべて身につける必要はありません。自分に合っていそうな,興味の持てる技法をいくつか身につけられれば,それが自分用の“CBTパッケージ”として,今後の人生で役立てていけることでしょう。また,技法を実際に練習しなくても,本書を読むだけで,「ああそうか,と思って元気が出る」という方も多くいらっしゃるようです。そういう意味では本書は,CBTに興味があり,活字をたくさん読む元気のある方にお勧めできる参考書であると言えます。

  ちなみに私はかなり前,健康な看護師さんのグループに対して継続的なセッションを行い,CBTをストレスマネジメントに役立てていただこうという試みをしたことがあります。その際,本書を看護師さんたちに勧めたところ,かなり好評でした。私とのセッションが終わった後に,何度も本書を読み返しているという方もいらっしゃいます。その意味では,本書は,治療というよりは,「セルフヘルプ力を上げ,今よりももっと上手にストレスとつきあえるようになりたい」という健康な方々に合っているのかもしれません。

(※私の言う「健康」とは,「何の問題もなく,元気で,バリバリに仕事や勉強をしている人」ということを指しているのではありません。実際そんな人いるのか? 私は違うぞ(笑)。ではなくて,精神科に通院し,医師の管理下での注意深い投薬加療が必要な方以外をまとめて「健康」と呼んでいます。そのぐらいアバウトな定義のほうが,実際いいと思う)

  以上,まずは入門的な「ひとりCBT」用の本を紹介しました。繰り返しになりますが,CBTの本は,読むだけではさほど役に立ちません。書いてあることをまずざっと理解した上で,紹介されている技法を実際にやってみることがとても大切です。その際,はりきって一気にやってしまおうとはせず,とにかく少しずつ着実に進めていくことを目指してください。またその際,ワークシートやノートを使って,外在化するようにしてください。次回は,抑うつ以外の問題を抱えている方を対象とした,「ひとりCBT」のための参考書を紹介します。

●今日のまとめの一言: 「ひとりCBT」を始めるのであれば,認知療法・認知行動療法の基本的な考え方や進め方を,まず理解して習得しよう。一冊の本を選んだら,無理のないペースで,少しずつ進めていこう。決してあせってやりすぎないこと。

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コメント

こんにちは。
お勧めの本が、私が参考にしていた本と同じでほっとしました。専門家のお墨付きだったんだなと思い、封印をといてみようかという気持ちになっています。
今の安定は、単に人と会わない生活をしているためにもたらされている、仮のものだと感じているからです。もうすぐ、否が応でも人と接しなければならない事態がやってくるので、もう一度読んで備えておこうかなと思います。
ありがとうございました。

投稿: すみれ | 2005年6月 4日 (土) 10時03分

こんにちは。たびたび申し訳ありません。
質問があります。差し支えなければおお教えくださいませんか。
copinng様は、病院に勤めていらっしゃるのでしょうか。
臨床心理士の資格を持っていらっっしゃるのですね。あの河合隼雄氏の学会認定の、ということですか。
クライアントに今回の認知療法の本や、その他そのクライアントの役に立ちそうな本を紹介されますか。
もしも失礼な質問でしたら申し訳ありませんでした。

投稿: すみれ | 2005年6月 4日 (土) 12時10分

すみれ様
 コメント&ご質問ありがとうございます。不安障害に関連する本は,次回ご紹介しますので参考にしていただければ幸いです。
 私は心理職として10年ほど医療機関に勤めておりましたが,現在は医療機関ではないところでカウンセリングをしております。(「あの河合隼雄氏の学会認定の」とお書きの臨床心理士の資格を一応持っておりますが,資格認定協会には批判的な立場でおります。)クライアントさんが希望する場合は,CBTの本をお勧めする場合もあります。カウンセリングと同時進行でお読みいただくこともあります。逆にクライアントさんに,本を薦めていただくこともあります。ありがたいことです。
 以上でお答えになっていますか?質問大歓迎です。お答えできる範囲でお答えいたしますので,これからもどうぞよろしくお願いします。

投稿: coping | 2005年6月 5日 (日) 11時16分

はじめまして,トラックバックをさせていただきましたizugaeruと申します。このBlogを見てとても勉強になりました。
私は,CBTは好きなのですが,CBTの体系的な教育を受けていない臨床心理学徒です。でも,この記事にあった本を元にすこしずつ自習していきたいなと思います。専門化向けにいい本があったら是非紹介してください。あと,私のBlogにリンクを貼らせてもらってよろしいでしょうか?

投稿: izugaeru | 2005年6月 6日 (月) 21時12分

izugaeruさま
コメント&トラックバックありがとうございます。リンクについてもよろしくお願いいたします。当方からも貼らせていただいてもよろしいですか?
貴ブログも拝見いたしました。
scientist-practitionerを私も目指していますが,言うは易く行なうは難しで(科学者としても実践家としても),四苦八苦しております。
が,こうやってお仲間が見つかると本当に励みになります。
せっかくリクエストいただいたので,専門家向けの書籍も,十分ではないかもしれませんが,
近々ご紹介してみたいと思います。
今後ともよろしくお願いいたします。

投稿: coping | 2005年6月 7日 (火) 00時03分

coping様
ぶしつけな質問にお答えくださいまして、どうもありがとうございました。プライベートなことをお聞きしてはいけないのではないかと不安に思いながらも質問させていただきました。
私は自分が病院に行くような病ではなく、性格からくる悩みであるとずっと思ってきました。それで、いろんなカウンセラーや心理療法家の本を読みました。河合隼雄さんの本も興味深く読みました。内容は納得のいくものであり(どれほど理解しているかは疑問ですが)、参考にはなりましたが、思考に変化は感じられませんでした。読んだ後自分に変化が現れたか、というと、まったくないに等しかったと思います。素人が批判するつもりはないのですが、私には合わなかったのでしょう。
それが、認知療法の本を読んで関心がわき、実はワークはほとんどしていないのですが、ぐるぐる思考から抜け出てきて、あまり考えすぎないようになってきたのには、自分自身驚いています。合っていたのでしょうね、考え方が。今後もこの思考傾向を持続させたいと思っております。貴ブログも引き続き楽しみにいたしております。ではありがとうございました。

投稿: すみれ | 2005年6月 7日 (火) 00時51分

すみれ様
 コメントありがとうございます。認知療法を習得する際,本などのテキストを読んで学びたい方,ツールなどに書き込んで学びたい方,人から教わりたい方など,その方の好みがあるのかもしれない,とすみれさんのコメントを拝読して思いました。すみれさんは,もともと本をお読みになるのがお好きなのでしょうか?差し支えなければ教えていただけると嬉しいです。(こちらこそぶしつけなご質問をしているようでしたら,申し訳ありません)。
  

投稿: coping | 2005年6月 8日 (水) 09時58分

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