« 【一人でできる認知療法・認知行動療法】その6:認知再構成法 技法① | トップページ | 【認知療法・認知行動療法】コラムその6:“浦河べてるの家”について ② »

2005年6月30日 (木)

【認知療法・認知行動療法】コラムその5:“浦河べてるの家”について ①

●「べてるの家」の活動には,CBT実践のヒントが詰まっている

  前回,「問題解決法」について掲載すると予告しましたが,ちょっと予定を変えて,“浦河べてるの家”について,書いてみたいと思います。というのも,たまたま今日電車で『べてるの家の「当事者研究」』(浦河べてるの家 著,医学書院)という本を読んでいたら,その「あとがき」で,べてるの家のメンバーの一人であった林園子さんが,昨年(2004115日)に亡くなっていたということを知ったからです(享年35)。

  私は“浦河べてるの家”という活動・コミュニティに,CBTの研究者・実践家として並々ならぬ関心を持っています。その経緯について今日は述べたいと思います。

  私が現場でCBTの実践を始めて,それなりの年月が経ちますが,CBTをやればやるほど実感されるのが,「テキストに書いてあるよりも,現場でのCBTはもっと豊かで役に立つ」ということです。テキストに書かれているCBTの理論やモデルやマニュアルはとてもスマートです。そしてその通りにCBTが進めば,なんて効率的かつ効果的なんだろう,というものでもあります。

  が,何でもそうですが,マニュアル通りに物事が進むなんてことは,現実にはあるはずもなく,また私がCBTを始めた当初はCBTのスーパーヴィジョンやワークショップなどを日本で受ける機会もほとんどなく,「どうすればいいんだろう」と壁にぶち当たるたびに,当事者であるクライアントさんと相談しながら,CBTを進めていくというやり方を取っていました。そしてそのようなやり方のおかげで,【クライアントさんとともに創り上げていくセラピー】というものを体得したように思います(と言っても,まだまだなんですが・・・泣)。また,CBTでの対話や実践を通じて,クライアントさんの自助力が回復したり向上したりすることを目の当たりにし,人間が本来的に持っている回復力や自助力に対する信頼感が,私自身のなかに育まれていったように思います。つまり決してスマートには進まない現場のCBTだからこそ,そこから得られる豊かな副効果のようなものが,多々あるのではないかと思うのです。

  しかしこういうことってCBTのテキストにはあんまり書かれていませんし,私も研究会や学会等でCBTについて発表することがそれなりにあるのですが,上記のような実感を伝えたいなと思いつつ,うまく伝えられないもどかしさをずっと抱えていました。

  また以前私は,精神科デイケアの運営に56年ほど携わっていたことがあり,CBTとは別に,“場”やコミュニティの持つ力というのを,デイケアで何度も目の当たりにしました。担当医師と担当カウンセラー(私)が何年も奮闘した事例が,クライアントさんがデイケアに通い始めるだけでいきなり展開することがよくあり,“人と人が関わる場”の持つ力のすごさを実感したのでした。(もちろん良いことばかりではなく,その力がネガティブな方向に働けば,むしろ大変なことになるわけですが,大変なことから皆で学ぶということも,それはそれで重要な体験だったように思います。)

と言っても,当時は「すごいな~」「へえ! こんなことが起きるんだ~」とひたすら感心していただけですが(笑)。さらに書いていて思いましたが,今でも大して変わりません。クライアントさんの起こす変化に対して,あるいはクライアントさんがいつまでも変化しないことに対して,「へぇぇぇぇ!」と感心しているだけのセラピストなのでした,私は・・・。

  ともあれ私は精神科での個人臨床(CBT)を通じて,CBTの豊かさ,人の自助力のすごさ,人と人が関わる場の持つ力,の3を学んだのですが,それをうまくまとめたり,伝えたりすることができずにいました。そんなとき新聞記事でたまたま,“べてるの家”について知ったのです。興味を持った私は,早速,べてるの家に関連する本を何冊か読んでみました。そして,私が学んだのに伝えられない上記の3点が,べてるの家の活動としてまさに集約されていることに,気づいたのでした。

●「べてるの家」のミーティングやSSTを見学してみた

  「これは絶対に浦河まで行って,実際の活動を見学しなければならない」と私は考え,念願かなって2003年の夏,23日で北海道の浦河町に滞在し,べてるの家の活動を見学することができました。授産施設でのこんぶの袋詰め作業,グループホームでの定例ミーティング,べてるの家が経営するショップ(「4丁目ぶらぶら座」というナイスな店名です),浦河赤十字病院でのデイケア活動,スタッフと当事者によるSST・・・などなどです。

  私の言語力では,到底そのときに受けた強い印象を説明しきれないのですが,「とにかくすごいことがこの浦河で起きている」ということは間違いない,と確信しました。と書くと,何か特別なことが行われているという印象を与えてしまいそうなのですが,そうではなく,上記CBTの豊かさ,人の自助力のすごさ,人と人が関わる場の持つ力,の3が,“べてるの家”の日常において,ごく当たり前のように実現されているという,それだけのことです。でも,そういう「それだけのこと」が逆に言うと,精神科医療やセラピーだけでなく,私たちの日常生活においても,実はなかなか実現されていない,ということなのだと思います。

  とくに当事者主体のSSTは素晴らしかったです。べてるの人たちは,SSTを「認知行動療法」であると認識して,実践しています。どこかで読んだのですが,SSTのパイオニアであるリバーマン博士も,一度浦河まで出向き,べてるのSSTを見学して大層感心したということですが,私は感心どころか,感動しまくっていました。これだけ生き生きとしたCBTの実践を見たことはありませんでしたし,また,そのような実践が,日々,なんでもないことのように行われている「べてる」という場を,ほんの少しの間でも体験させてもらったことで,やはり上記CBTの豊かさ,人の自助力のすごさ,人と人が関わる場の持つ力,の3に深く感じ入ったのでした。

  特に私は,自分が日々の臨床において小さく感動している“CBTの豊かさ”を,“べてるの家”が具現していると確信しました。そこでSSTだけでなく,べてるの家の様々な活動を,CBTの視点から何らかの形でまとめ,提示し,共有してみたい,と思うようになり,今でもそのように強く思っています。(残念ながら,未だに思っているだけで,行動に移していないんだが・・・)

  それにしても,べてるについて書こうとすると,どうしてもうまく書けない。何か書くと,何かがこぼれ落ちていく気がしてなりません。というわけで,興味を持たれた方は,べてるの家のホームページを参照してください。

http://www.tokeidai.co.jp/beterunoie/top.html

●林園子さんとのおしゃべり

  さて今回,いきなり“べてるの家”の記事を書くことにしたのは,冒頭に書いたとおり,メンバーであった林園子さんの訃報を知ったからです。2年前,私が「べてる」の見学に行き,べてるのショップをうろついていたときに,話し相手をしてくれたのが,ちょうどそのときに店番をしていた林さんでした。

  林さんは初対面の私に,ご自分がべてるの家のメンバーになるまでのいきさつを話してくれました。そして今,ご自分が取り組んでいるテーマ(当事者研究)について,お話ししてくれたのです。

  べてるの家の当事者研究については,次回書きますが,この話を聞いたときに,私が言語化できないままずっと感じ続けてきたCBTの豊かさの意味が,ようやくわかった気がしました。また自分に問い続けていた,“問題解決志向”と“解決志向”の違いは何か,ということについても,自分なりに答えを出すことができました。べてるの家を知って,私の実践するCBTも,前よりちょびっとは豊かになったように思いますし,クライアントさんのもつ力を理屈抜きでより信じることができるようになりました。

  さらに今では仲間と「べてるプロジェクト」なるものを勝手に立ち上げ,べてるの研究を始めようかという相談をしていたりもします。

  その発端は,やはりあの日,あのショップでの,林さんとのおしゃべりだったのだと思います。昨年,WCBCT(世界行動療法認知療法会議)という国際学会で,私は偶然林さんにお会いしました。(※べてるの人たちは,今や国際学会で講演をよくなさっているのです!) 林さんは私のことなど忘れていましたが,私は見学したときに自己研究について教えていただいたことのお礼を述べ,機会があったらまた浦河に出かけて林さんや他のメンバーさんに自己研究についてインタビューしたいと申し出ました。

  しかしそのような機会を作らないまま,林さんが亡くなっていたことを,今日私は知り,「悲しい」とかそういう感じではなく,とにかく「ああ!」と思いました(これがその時の唯一の自動思考です)。そして今これを書いていて感じるのは,2002年に浦河にたどり着き,2004年に急逝された林さんと,たまたまおしゃべりする機会を与えられたことに対する感謝の念です。林さんやべてるから得たことを,私が「べてる!」「べてる!」と大騒ぎするのではなく,自分の日常,すなわち自分が毎日実践している臨床において,静かに生かしていくのが,まず私がするべきことなのだと思います。

  が,せっかくここで「べてるの家」について書いたので,もう少しだけ,次回と次々回に書き足してみたいと思います。

●今日のまとめの一言:CBTの豊かさ,人の自助力のすごさ,人と人が関わる場の持つ力,の3点が「べてるの家」に集約されている。とも言えるが,その3点はごく当たり前のことだとも言える。(まとめになっていない,「まとめの一言」でした)

|

« 【一人でできる認知療法・認知行動療法】その6:認知再構成法 技法① | トップページ | 【認知療法・認知行動療法】コラムその6:“浦河べてるの家”について ② »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 【認知療法・認知行動療法】コラムその5:“浦河べてるの家”について ①:

« 【一人でできる認知療法・認知行動療法】その6:認知再構成法 技法① | トップページ | 【認知療法・認知行動療法】コラムその6:“浦河べてるの家”について ② »