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2005年5月19日 (木)

【認知療法・認知行動療法】コラムその2:新世代の認知行動療法①

  ネットで“認知療法”を検索すると,さまざまな情報を一覧できますが,いまだにアーロン・ベックが構築した古典的な認知療法ばかりが紹介されているように思われます。アーロン・ベックが認知療法を構築し始め,その理論や方法を公表したのは1960年代から1970年代にかけてですが,それから3040年以上を経た今,認知療法はかなり進化し,多くの技法が考案されたり洗練されたりすることで,さらに多くの人に役立つものになっています。現代の認知療法や認知行動療法(CBT)は,“新世代のCBT”“第二世代CBT”などと呼ばれることもあります。今日はこの“新世代のCBT”について簡単にご紹介します。

●アーロン・ベックの“認知療法”は,“古典的認知療法”

  上記のとおり,アーロン・ベックの“認知療法”は,“古典的認知療法”などと最近呼ばれることがあります。アーロン・ベックは,うつ病患者の思考が過度にネガティブであることに着目して,そのネガティブな思考,特にある場面で生じる「心のせりふ」を「自動思考」と定義しました。ベックは,クライアントさん自身が,自分のネガティブな自動思考に気づき,それをより現実的で合理的な思考へと修正する方法を編み出し,それを“認知療法”として構築したのです。

  アーロン・ベックの認知療法は,ネガティブな認知によって身動きが取れなくなってしまっている多くのうつ病患者を救いましたし,今でもこの種のクライアントさんにとっては非常に効果的な治療法・援助法だと思います。またベックが認知療法の指針として提唱した,“協同的実証主義”や“ソクラテス式対話”や“誘導による発見”といったコミュニケーションのあり方は,現在のCBTにおいてもやはり重要な原理原則です。その意味では,現代のCBTの核をなすのは,アーロン・ベックの認知療法であるのは間違いありません。したがって,ベックの認知療法が“古典的”と称されるのは,敬意を表してのことであって,決して「古典的だから(古いから)ダメだ」,ということではありません。

●認知再構成法(いわゆるコラム法)だけが認知療法ではない

  アーロン・ベックの古典的認知療法を実施するための技法が,“認知再構成法”です。認知再構成法の手順は,①ストレスを感じた状況を同定し,②そのときに生じた自動思考や気分感情を同定し,さらにそれらの強さも同定し,③自動思考の根拠や結果や反証について検討し,④かわりとなる新たな思考を案出し,⑤もともとの自動思考と気分感情の強度を再度評価する,というものです。情報量が多く,認知的にもある程度複雑な作業を必要としますので,認知再構成法は,表(コラム)などツールを用いて行うのが一般的です。この技法が“コラム法”と呼ばれることが多いのは,そのためです。

  認知再構成法(コラム法)は,技法としても洗練されており,適切な目標のもとで適切に適用されれば非常に効果の高い強力な技法です。しかしCBTが進化するなかで,さまざまな技法が開発されたり洗練されたりし,それらの技法を組み合わせて適用するのが今では一般的です。認知再構成法は,CBTのひとつの技法に過ぎないのです。(実際に私自身もクライアントさんと一緒にCBTを行いますが,認知再構成法を使わないケースも多々あります)。

しかし上にも書いたとおり,“CBT(特に認知療法)=認知再構成法(コラム法)”と誤解されているようで,私はそれがとても気になっています。「CBTを正しく世の人に知っていただきたい」,「CBTにはコラム法以外にも多くの役に立つ技法があるということを広めたい」というのが,私がこのブログを始めた動機のひとつです。私がさらに気になっているのは,精神科医や臨床心理士という専門家でさえ,“CBT=コラム法”と思い込んでいる人が多いという事実です。

たとえばあるクライアントさんが,「認知療法を受けたい」と来談された場合,“CBT=コラム法”と思い込んでいる専門家は,そのクライアントさんを十分にアセスメントすることなく,またそのクライアントさんとのCBTにおける目標を設定することもなく,いきなりコラム法をやらせてしまう,ということになりがちです。たまたまコラム法がその人に合っていれば効果が得られますが,そうではなかった場合,「なあんだ,認知療法ってたいして効かないんだな」ということで終わってしまう恐れがあります。そのクライアントさんにはコラム法ではなく,別のCBTの技法を適用すべきだったのかもしれないのに,その可能性が検討されることもなく,「自分には認知療法が合わなかった」と結論づけられてしまうとしたら,クライアントさんが気の毒ですし,誤解されたままの認知療法も気の毒です。(こういう事態になった場合の責任が専門家側にあることは,言うまでもありません)。

  残念なことに,このようなことは現実に起きています。CBTが効果的な心理療法として知名度を上げていくそのスピードに,専門家の育成が間に合っていないからです。たとえば私が所属する日本認知療法学会などでは,専門家の育成や,CBTの品質管理について,以前より真剣に議論されるようになってきています。学会でもワークショップを主催するなどして,専門家の育成を図ってはおりますが,当分,専門家不足の事態は続くと思います。

しかしCBTは必ず専門家から受けなければならないというものでもありません。本などを参考に,自分でもやろうと思えばできます。このブログでも近いうちに,専門家の指導のもとでCBTをやるとしたら,きちんとした認知行動療法家をどのように探せばよいか,ということについて書いてみたいと思っています。そのような探し方で専門家がうまく見つかればベストですが,残念ながら見つからなかった場合,「認知療法=コラム法」と誤解している専門家からコラム法を押し付けられるよりは,自分でやることを選択するほうが良いかもしれません。専門家なしで「一人認知療法」をどのように進めていくと良いかということについても,いずれこのブログで書いていく予定です。

話が脇にそれてしまいました。このコラムは次に続きます。次回は,新世代の認知行動療法とは具体的にどのようなものか,紹介する予定です。

●今日のまとめの一言: CBTは進化しつづけており,いわゆるコラム法以外にも,さまざまな有用な技法がある。しかし専門家でさえ,「認知療法=コラム法」と誤解している場合が多くみられる。

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