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2005年5月31日 (火)

【一人でできる認知療法・認知行動療法】その2:ゆっくり少しずつ進めていこう

  ご自分で認知療法・認知行動療法を練習してみたい(以下,「ひとりCBT」と表記)方に対するアドバイスの第2弾です。

●はりきってどんどん進めようとしない

  専門家と一緒にCBTを進める場合は,セッション(面接,診療)は多くても週に1度でしょうから,無理のないペースで進めていけます。クライアントさんによっては,「どんどん進めたい」「もっと早く進めてほしい」とおっしゃる方もいらっしゃいますが,(モチベーションが高いこと自体はすばらしいことです),「あせらずに着実なペースで進めていくほうが,結果的にはきちんと身につきますよ」ということを説明し,急ぎすぎないようにしていただきます。

  本などを使って「ひとりCBT」を実施する場合,その気になれば数日あるいは1日で本を読み終えることができてしまいますが,CBTの本を読むことと,CBTの知識やスキルを身につけることは,別物だと考えてください。本には,認知再構成法(コラム法)などの技法や,その技法を練習するツールが紹介されており,やる気のある人は,はりきって一気に練習してしまおうとする傾向があるようです。が,専門家と一緒にやって,すごく順調に進んだ場合でも,1015回のセッションを必要とするのがCBTです。週に1度のセッションでも,3~4ヶ月はかかるのが普通です。したがって,一気に本を読み,一気に技法を練習しようということ自体に無理があるとお考えください。

●“時間がかかる”というより,むしろ“時間をかけて身につける”と考えよう

  CBTに限らず,新たな知識やスキルを身につけるには,それなりの時間や手続きが必要です。「ひとりCBT」は「料理本をみながら,ひとりでコロッケの作り方を覚えるようなものだ」と以前に書きましたが,“コロッケを作る”と一言で言っても,これまでジャガイモの皮をむいたことがない人は,皮むきから覚えなくてはなりません。今では苦もなく自動車を運転している人だって,最初は,カーブを曲がるとき,どの程度ハンドルを切ればよいのかといったことから,一つ一つ身につけていったはずです。ピアノの練習曲を一つ習得するのだって,曲を分解し,分解したものを何度も何度も練習し,時間をかけて弾けるようになっていくものです。

「ひとりCBT」も全く同じことです。習得にはそれなりの時間がかかるのです。「時間がかかる」というとネガティブな感じがするかもしれませんが,むしろ「確実にCBTを身につけて,今後の人生に役立てるためには,じっくりと時間をかける必要があるのだ」と考えていただくと良いかと思います。そそくさとあせって練習した結果,雑なスキルしか身につかなければ,かえってそれは役に立たないままで終わってしまうでしょう。時間をかけて丁寧に練習すれば,一生役に立つ知識とスキルとして,CBTを身につけることができるでしょう。

次回は,「ひとりCBT」のために役立つ一般書について,具体的に紹介してみたいと思います。

●今日のまとめの一言:本やツールを使って取り組む“一人CBT”は,少しずつ着実に進めていくことが重要である。

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2005年5月28日 (土)

【ストレスコーピング】 コーピングレパートリーを豊かにしよう

  このブログのタイトルでもある【ストレスコーピング】についても,少しずつ紹介していきます。ストレスコーピングとは,自分の感じているストレスに対して,自覚的に実施する対処法のことです。誰でも自分なりのストレス対処法というものを普段から実施しているかと思います。

●コーピングレパートリーという考え方

ストレスコーピングに関する実証研究によれば,多様なストレスコーピングをできるだけたくさん身につけておき,日常生活でそれらを柔軟に活用できる人は,心身の健康度が高い傾向にあるということです。これは直感的にもわかりやすい考えだと思います。日常生活のストレスには様々な種類のものがありますから,「これさえできれば大丈夫」というコーピングがあるわけではなく,その時々のストレスに合ったコーピングをチョイスして使ってみる,使ってみてうまくいけばOK,うまくいかなかったら別のコーピングに切り替える,という柔軟性が必要なんですね。確かに周囲を見渡してみても,元気で生き生きしている人は,何かあっても落ち着いて対処し,その切り替えも上手なように思われます。そういう人はコーピングの手持ちが多く,それらをうまく使い分けているのでしょう。

  ところで「手持ちのコーピング」を心理学的ストレス理論では“コーピングレパートリー”と呼びます。カラオケのレパートリーと全く一緒ですね。カラオケのレパートリーの多い人,特にJPOPから洋楽から昔の歌謡曲から演歌まで,幅広い種類のレパートリーをたくさん持っている人は,カラオケに行くのがさぞかし楽しいでしょう。(私は逆にレパートリーが少ないので,カラオケがあまり好きではありません。笑いを取ってごまかす方向につい走り勝ち・・・笑)。それと同様に,多様なコーピングのレパートリーを増やしておけば,ストレスを感じる様々な状況や,ストレスを感じている自分自身に対して,適当なコーピングを選択し,実施することが可能になります。すると,ストレスそのものはなくならなくても,ストレスに対応する力(ストレスマネジメント力)が強くなります。大事なのは,ストレスを減らすことと同時に,コーピングレパートリーを普段から増やしておくことなのです。

  ではストレスコーピングにはどのようなものがあり,どのようなコーピングを増やしておくと良いのでしょうか。このブログではこのようなことについても認知療法・認知行動療法の観点から,そしてストレスコーピングに関する心理学的実証研究の知見に基づき,順次ご紹介していきたいと思います。

●今日のまとめの一言:ストレスマネジメントをうまくやっていくためには,ストレスコーピングのレパートリーをできるだけ増やしておき,日常生活で柔軟に活用すると良い。

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2005年5月26日 (木)

【一人でできる認知療法・認知行動療法】その1:どんな時に始めると良いか

●一人でもCBTを実施することは可能

  先日,認知療法・認知行動療法(以下CBTとも)の専門家の探し方について紹介しました。本格的にCBTを受けてみたい,試してみたいというのであれば,できればCBTのトレーニングをきちんと受けた専門家と一緒に行うのが理想的ですが,前述のとおり,日本では残念ながら専門家の絶対数が不足しており,それが難しいというのが現状です。

http://cbt.cocolog-nifty.com/coping/2005/05/post_dcfd.html

  ですが悲観的になる必要はありません。CBTは気をつけて行えば一人で実施することも可能です。料理と同じです。たとえば,美味しいコロッケを作りたい人が,料理教室に通ってコロッケの達人に作り方を教われば,最も効率的に美味しいコロッケの作り方を覚えられるでしょうが,料理本のレシピを見ながら,自分でコロッケの作り方を習得することも,やろうと思えば誰でもできますよね。この場合,先生に教わるのに比べて時間がかかるかもしれませんし,何度かは失敗してしまうかもしれません。けれどもあきらめずにトライしつづければ,いつか自分なりの美味しいコロッケの作り方を習得することが可能です。そして一度,自分なりのコロッケ調理法を身につけてしまえば,これから一生,美味しいコロッケを自分で作りつづけることができ,自分で食べたり,誰かに食べさせたりすることができるのです。

  CBTの自習もコロッケの例と全く同じだと考えてください。きちんとした専門家のもとでCBTを受けられれば理想的ですが,そうでない専門家(※専門家の見分け方については別ページを参照ください)とやるよりは,むしろ多少時間がかかるかもしれませんが,CBTを自習するほうがずっと良いのではないかと思います。

  ただし,CBTを一人でやるのであれば(以下,「ひとりCBT」と呼ぶことにします),効果的に自習できるように,ある程度のポイントを押さえておく方がよいでしょう。そこでこのブログでは,これから何回かに分けて,「ひとりCBT」をなさりたい方のために,いくつかアドバイスをしてみたいと思います。(ただしこれから書くことは,例によってあくまでも筆者の私見です。)

  今日はまず,どんなときに「ひとりCBT」を始めたらよいのかについて,書いてみます。

●回復期に“仕上げ”として実施する

  仮にあなたは今,うつ病などの精神疾患に罹患して,現在治療中であるとします。そして現在,治療を始めたばかりであるとか,合う薬物を探したり試している最中であるとか,抑うつ症状が重くて生きているのが精一杯であるとか,本を読んだり何かを書いたりする気には全くなれないとか・・・・・,といった状態であれば,今,「ひとりCBT」はトライしないほうが良いでしょう。こういうときは主治医の指示にしたがって,まず状態が安定するのを待ちます。

適切な治療を受けていれば,いつか必ず回復期に入ります。症状が安定し,「まだすっきり治りきってはいないけれども,“回復期”に入ったな」と思えるような状態になってから,「ひとりCBT」を始めましょう。というのも,急性期では,まず薬物療法を中心とした治療をきちんと受けて少しでも状態を良くすることが重要ですし,そのようなときに「ひとりCBT」を開始するのは,むしろ心身に負担がかかり,症状が悪化するおそれがあるからです。お腹をこわしているときに,慣れないコロッケ作りに挑戦するようなものです。(そもそも急性期には,「ひとりCBT」を始める気力がわかないのが普通だと思います。)

  回復期に入って安定してから,そして「自分でCBTをやってみてもいいかな」という気になったら,「ひとりCBT」にトライしてみてください。実際,CBTは治療の仕上げとして役に立つことが多く(私の臨床における実感です),安定してからであれば,自分一人でCBTを練習することも十分に可能だと思います。その際できれば主治医に,「認知療法・認知行動療法というのがあって,自分でちょっと練習してみようと思う」と,一言相談してみると良いでしょう。私が知っている限り,そのように相談された治療者が,「ダメだ。やめなさい」と言うことはまずありません。

●回復後に“再発予防”として実施する

  回復期ではなく,回復後の元気になった状態で,「ひとりCBT」を開始するのも,非常に効果的だと思います。回復直後にCBTを実施することで,たとえば,「なぜ今回,自分はうつ病になってしまったのか」,「今後,どういったことに気をつければ良いか」,「万が一症状がぶりかえしそうになったときに,どんな工夫をしたらよいか」などといったことが,具体的に理解でき,必要な技法が身につけられると思います。CBTはうつ病や不安障害などの精神疾患の再発予防効果が高いことが知られています。回復後,元気になった状態であれば,「ひとりCBT」は十分可能ですし,具合の悪かった時の記憶も鮮明でしょうから,そのときの体験からいろいろと学ぶことができます。

●ストレスコーピングとして「ひとりCBT」を習得する

  さて,とくに診断のつくような精神疾患にかかっていなくても,生きていればストレスはつきものですから,できれば上手に自分のストレスとつきあっていきたいものです。自分らしくストレスと付き合うことを「ストレスマネジメント」と言います。よりよいストレスマネジメントのためには,自分に合ったストレス対処法をあらかじめ身につけておくのが効果的です。自覚的にストレス対処を行うことを“ストレスコーピング”と言います。CBTは病気の治療だけでなく,健康な人のストレスコーピングとしても役立つことが,最近徐々に確認されています。実際私自身,ストレスが溜まったとき,「ひとりCBT」を実施することがよくあります。CBTを共に学んでいる仲間も皆,そうしているみたいです。

(※余談ですが,私は昨年末,私的な事情で,「このままだとうつになる~!」と思うぐらい,ストレスにまみれて苦しんだときがありました。久々にツールを使って,じっくりと認知再構成法に取り組みました。効果はてきめんでした。改めてこの技法の強力な効果を実感した次第です・・・笑)

  ですから,効果的なストレスコーピングを身につけて,自分のストレスマネジメント力をアップさせたいという方には,「ひとりCBT」をお勧めします。CBTはもちろん万能ではありませんが,実際にさまざまな技法・対処法が含まれますので,様々な状況や自分の状態に合わせて,それらの技法をピックアップして試すことが可能です。自分なりのCBTのパッケージを自分で作ることができるのです。これはストレスコーピングとしては非常に強力だと思います。

(※私がこれまでお会いしてきたクライアントさんの多くが,CBTの考え方と様々な技法を身につけてカウンセリングを卒業なさいましたが,回復後も,自分のためにCBTの技法を使い続け,元気に暮らしている方が多くいらっしゃいます。皆さん口をそろえておっしゃるのが,「病気になって良かったとは思わないけど,病気になったおかげでCBTを知ることができた。そして元気になった後でも,自分のためにCBTを続けることができて嬉しい」ということです。)

  以上,「ひとりCBT」を始めるにあたってのアドバイスでした。

●今日のまとめの一言:「ひとりCBT」を始める時期に気をつけたい。また「ひとりCBT」行う場合は,治療の仕上げのためなのか,再発予防を目指すのか,ストレスマネジメントの一環なのか,その目的を明確にしておこう。

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2005年5月24日 (火)

【認知療法・認知行動療法】コラムその4:自動思考についてのナイスな説明

  CBT,とくにベックの認知療法における“認知再構成法”では,ストレスフルな場面において頭の中に浮かぶ自動思考を同定することを,まずはじめにやりますが,ではその自動思考とは何ぞや?というと,実は未だにきちんとした操作的定義がされておらず,テキストによってバラバラなことが書かれています。

最近も某マンモス学会が発行しているジャーナルに,珍しく認知療法に関する論文が出ていましたが,その論文における自動思考の定義は,「自動的に頭に浮かぶ否定的な思考のこと」という悲惨なものでした。この「否定的な」というのが曲者です。「否定的な思考」って,誰がどう決めることなんだ? さすがに現在のCBTのテキストには,このような定義が書かれることはありませんが,「じゃあ自動思考って何?」と聞かれたときに,それにきちんと回答できるだけの定義づけがなされていないというのが現状だと思います。

CBTにはエビデンスがある」と威張って言われますが(実はときどき私も威張ります),それは治療効果のことであって,CBTが用いているモデルや概念のエビデンス(実証性)って,実はまだまだ弱いのではないかと私は考えています。そして,CBTで用いられるモデルや概念の定義や説明にこそ,私は基礎心理学(とくに認知心理学,社会心理学,発達心理学)の成果を活用するべきだと思います。たとえば自動思考についてであれば,認知心理学における“自動処理”と“制御処理”といった概念から,もう少しマシな定義や説明が可能だと思うのだけどなあ。(そういう作業を私が自分でやればいいのですが,ついついこういったことは日常の臨床や原稿仕事に追われて,結局後回しになってしまうのです)

  さて,長い前フリでした。

  なぜいきなりこんな前フリかと言いますと,日本における精神科救急医療のパイオニアである,計見一雄氏の『統合失調症あるいは精神分裂病』(2004 講談社)を読み直していたら,これまで読んだなかでもっともリアルでもっともわかりやすい自動思考についての説明が書かれていてびっくり。(と言っても,計見氏が自動思考の定義づけのために,この文を書いたわけではありません。これは「主体」と「自己」について書かれてあった箇所からの引用です)

それから友だち。「今夜は自分ひとりを道連れにして,少し街を歩こう」なんていうのが,友だちですね。それから対話者。自分自身と語る,対話する。こんなのは,幻聴まであと一歩。なぜ幻聴なのかと言えば,「年中聞こえてきているのは,お前(主体)に話しかけてくる自分(自己)の声なんだよ」という話になるからです。

ついでにちょっと脱線すると,この「対話」というものがどういう時に,頭の中で一番激しくなるのか。これは,冒険しない人には分からないんです。どういう冒険かというと,「あの女を俺のものにしようかしら」とか,「あの標的を狙おう」。「あの仕事を取ってやろう」とか,「あの仕事を人のやらない新しいやり方でやってやろう」とか,新しい冒険をしようとする時に,頭の中の対話が非常に活発になります。何と対話しているのかというと,今の状況と昔の体験との間を行ったり来たりしているわけです。「あの時はああやってうまく行ったけれども,今度もうまく行くかなあ」とか,「いやダメだろうなあ。それはやめておいた方がいいよ」「どうしようか」「でもなあ」と。

    仮に誰かに電話するにしたって,本当は掛けたくない電話を二本も掛けるとすると,朝から考えていますよ。「いつ電話しようかなあ」と。「あの人はどうだろうな・・・夕方の方が機嫌がいいかな?」「朝掛けると怒るんじゃないかな」「いや大丈夫なんじゃないの」と。年中対話している。

    ある新しい行動,激しいものであれば「冒険」をする時に,頭の中の対話というものは活発になります。だから「弁証法」って言うんです。弁証法というのは,別に哲学的な難しい話じゃなくて,我々が年中やっていることです。現実についてどうしようかと考えて,大概はネガティブ・データがいっぱい脳の中に入っているから「お前,そんなことできっこない」だとか「いや,そんなこと言ったって,やりたいよ」とかね。そういう対話をやっていって,あるところでポッと・・・これは次回に繋がっていく話だけれども,そういう「ある行為を決断する」という形で,パッと結論が出る。これをムツカシク言えばアウフヘーベン,日本語では止揚とか言うらしい。そこで結論が出て,うまく行くこともあるければ・・・おおむねはうまくいかない。

    それでも,うまくいかないということを経験すると,今度は少しお利口になって,対話集会に ―――。対話集会になっちゃったらこれは大変です。頭の中にたくさんの人が,700人入っていたのが1人になったっていう人がいました。なんだか眼がトローンとなって,全然心ここにあらずで,宇宙外に飛んでいたんですが,この頃は眼がピカピカしてきた。俺の顔を覚えていて,「先生」なんて言って側にやってきた。「俺のこと知ってるの?」「知ってるよ」「頭,はっきりしてきたの?」って言ったら,「いや・・・」。ナースに訊いたら,700人いたのが1人になった,って言っているから大丈夫だって。

    だから対話集会では,ダメです。真摯な対話を頭の中でやる訓練をしないと。そうすると分裂病になりません。だから「やたらに対話しているから病気だ」とは言わないでください,ということを私は言いたい。対話をしない方がよっぽど病気だよ,と言いたいわけです。(計見一雄,『統合失調症あるいは精神分裂病』,2004年,講談社,p.220-222

  繰り返しになりますが,自動思考についてこれほどわかりやすく書かれた文はないと思います。自動思考は,まさに冒険しようとするときに,わんさか頭に浮かんでくる「自己」の声なんですね。さらに,「真摯な対話を頭の中でやる訓練をしないと」というフレーズ,うなります。認知再構成法というCBTにおける超重要技法が狙っているのは,まさにこういうことなんです。

●認知再構成法とは,「真摯な対話を頭の中でやる訓練」(@計見一雄)である

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2005年5月21日 (土)

【認知療法・認知行動療法】コラムその3:専門機関・専門家の探し方

●もし私が当事者だったら,どうやって探すか

  認知療法・認知行動療法を専門家の指導のもとでやってみたいという方が,どのように専門機関や専門家を探せば良いかということについて書いてみます。アドバイスというよりは,たとえば「もし私がうつ病にかかったら,自分だったらこうする」という視点から,シュミレーションしてみたいと思います。 ※これから書くことは,あくまでも筆者の私見です。筆者とは異なる考え方ももちろんあるでしょうから,一つの考え方として参考にしていただければ幸いです。

①病院の専門外来を受診する

  もし私がここ数週間,あるいはここ数ヵ月間,ひどく落ち込み続けていたり,パニック発作を頻発して社会生活を送るのが困難になっていたり・・・というふうに,何らかの精神的な症状で困っていてCBTを受けたいと思ったら,“認知療法外来”または“認知行動療法外来”でネット検索して,そのような専門外来のある医療機関を受診するでしょう。病院が専門外来を設置しているということは,きちんとトレーニングを受けた専門の医師がいると考えられますから,最初の受診先としてはまず安心です。保険証も使えます。そのうえで,念のため事前に調べるとしたら,こんなことです。

たとえばA大学病院に認知療法外来があることを知ったとします。そうしたらA大学病院とかその外来の担当医師名を再度ネットで検索し,たとえば日本認知療法学会といった学会で発表や講演をしたりしているか,CBTに関する論文を書いているか,といったことを確認します。「学会発表や論文があれば確実」というわけではありませんが,そのドクターらが,少なくとも学問的にきちんとCBTを習得し,臨床実践しているという根拠にはなりますから。

②クリニックを受診する

  もし私が,仕事を続けながらCBTを受けたいと思ったら,病院の専門外来は物理的に受診が難しいかもしれません。その場合,「認知療法ができます」とホームページなどで謳っている精神科や心療内科のクリニックを受診することを検討します。その際,事前に確認したいことがいくつかあります。

  一つは,誰がCBTを実施するのか,ということです。つまりそのクリニックの医師なのか,そのクリニックに勤務するカウンセラーなのか,そのカウンセラーは臨床心理士なのか,それとも何か別の資格を持っているのか,などです。ホームページを見てもわからなければ,メールを送るか電話をするかなどして,直接確認して情報を仕入れます。

  誰がCBTを実施するのか,ということが分かれば,やはりネットで検索するなどして,その人が学会で発表や講演をしたりしているか,CBTに関する論文を書いているか,といったことを確認します。あるいはこの件についても,メールや電話などで直接問い合わせるかもしれません。問い合わせをするとしたら,CBT実施者の訓練歴や臨床歴について,また所属学会などについて,具体的に尋ねます。

もう一つ確認したいのは,そのクリニックでCBTを受ける場合,健康保険がきくのかきかないのか,ということです。クリニックの場合,きく場合と自由診療で高い面接料がかかる場合の両方がありえます。

以上の情報を仕入れた上で,そのクリニックでCBTを実施する専門家が医師または臨床心理士で,CBTについてある程度の実績があることが具体的に開示され,専門の学会にも所属しており,そのクリニックでのCBTに保険証が使えるということであれば,私は予約をして受診すると思います。

保険がきかないとか,そのクリニックが経営するカウンセリング機関であればCBTが受けられるということであれば,以下のやり方で検討を続けます。

③通院しながら,別の機関でCBTカウンセリングを受ける

  もし私がうつ病などですでに通院中で,その治療自体には特に不満はないし,主治医のことも信頼できるのだけれども,通院先ではCBTを受けられないという場合,通院しながら,別の機関でCBTをカウンセリングとして受けることを検討するでしょう。この場合,まず主治医に相談して専門機関を紹介してくれるよう依頼します。

  主治医が紹介先を持っていない場合は,やはりネットなどで検索して,「認知療法」「認知行動療法」を実施しているという相談機関を探します。あとは上と同様に,その機関やカウンセラーが,本当にCBTの専門家であるかを確認するために,ネットで調べ,さらに直接問い合わせをして,情報を収集します。そして次の観点から,収集した情報について判断します。

・そのカウンセリング機関に所属するカウンセラーは,臨床心理士の有資格者か。(臨床心理士だから良いというわけでは全くありませんが,一応の目安にはなると思います)

・カウンセラーは,CBTの継続的な訓練を受けているか。(単発のセミナーに出たことがあるという程度では,訓練を受けているとは言えません)

・カウンセラーは,専門の学会に所属し,大会に参加したり発表したりといった専門家としての活動を続けているか。(特に,「日本認知療法学会」または「日本行動療法学会」に所属しているかどうかを確認します)

・その他こちらの問い合わせに,具体的で納得のいく説明があるか。

  以上いろいろと調べてみて納得ができたら,主治医に紹介状を書いてもらい,初回面接(インテーク面接)の予約を入れます。初回面接で,自分がその機関でCBTを始めたらどのようなプロセスをたどるのか,その機関で実施しているCBTとはどのようなものか,納得のいくまで説明を求めます。その上で,以下の点について,「とりあえず大丈夫そうかな」と思えたら,カウンセリングを継続することにします。

CBTとは何か,ということについて具体的でわかりやすい説明があった。

・自分の主訴や症状をきちんと調べた上で,自分に合った技法を選ぶという流れで進んでいくらしい,ということがわかった。(逆に,「コラム法で考え方の癖を直すのが認知療法だ」という主旨であればパスします。

・こちらの質問に対して,具体的でわかりやすい説明があった。

・わからないことは,「わからない」とはっきり答えてくれた。

・今後どのような流れで進めていくのか,具体的な説明があった。

・そのカウンセラーと協同作業ができそうな気がした。すなわち一方的に話すとか,一方的に教えられるとか,そういう感じではなく,カウンセラーと一緒になってCBTを進めていけそうな感じがした。

④特に通院などはしていないが,CBTカウンセリングを受けてみたい

  もし私が,通院するほどの症状や問題があるわけではないけれども,自分がよりよい状態で生きていくためにCBTを受けてみたい,専門家のもとでCBTを習得したいのであれば,上記「③通院しながら,別の機関でCBTカウンセリングを受ける」と同様の視点から,民間のカウンセリング機関を探します。

  以上,専門機関と専門家の探し方と選び方でした。つまり保険証が使える病気や症状があれば病院の専門外来を受診しますが,その場合は,その専門外来をとりあえず信頼してみることして,事前にたくさんの情報を収集するようなことはしません。病院の専門外来という点で,ある程度信用が担保されるからです。あとは通ってみて,そこに通うことが自分のためになりそうかどうか,判断すれば良いのです。

しかし保険証が使えない,つまり1回の面接に数千円から1万数千円を支払わなくてはならない機関でCBTを受けるとしたら,その機関が医療機関の所属であろうがなかろうが,事前に相当な情報収集をし,さらに一度行ってみてよく話をして,上のような視点から,その機関でCBTを続けるかどうか検討すると思います。その上であとは通ってみて,やはりそこに通うことが自分のためになりそうかどうか,判断します。カウンセリング機関に対してこれだけ慎重なのは,やはりカウンセラー(臨床心理士)の質にあまりにもばらつきが大きいのと,それなりにコストがかかるからです。そして別記事でも述べましたが(【認知療法・認知行動療法】コラムその2:新世代の認知行動療法),考え方の癖を直すという古典的な認知療法を,「それが認知療法だ」と思い込んでいるカウンセラーの実施する“認知療法”では,効果が期待できない可能性が高いからです。逆に,上の条件を満たす機関でCBTを受けることに決めたら,たとえ保険がきかずかなりの出費を強いられるとしても,「一生使えるセルフヘルプのスキルを身につける良い機会だ」と考え,かけたお金のもとを取るつもりで,真剣に取り組むことにするでしょう。

●今日のまとめの一言: 認知療法・認知行動療法の機関や専門家を探すには,それなりに時間をかけて情報収集する必要がある。

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【認知療法・認知行動療法】コラムその2:新世代の認知行動療法 ②

 “新世代の認知行動療法(CBT)”の続きです。

●新世代の認知行動療法: アセスメント 目標設定 技法の選択 というプロセスをたどる。

  アーロン・ベックの認知療法が,敬意をこめて“古典的認知療法”と呼ばれていること,認知療法・認知行動療法(CBT)そのものが進化して,現在では“新世代CBT”と呼ばれる事態にまで発展していることを,前節では紹介しました。では,“新世代CBT”とは,具体的にはどのようなものでしょうか?

  新世代CBTの発展は,学問的には,精神病理学やいわゆる“異常心理学”を通じて,各症状や障害の心理学的モデルが構築されたことが大きいと思われます。アーロン・ベックが構築したのは,異常心理学的に言えば“うつ病の認知モデル”でした。ベックの認知療法はうつ病に対する治療法として発展したのです。しかし認知療法の適用範囲が,うつ病以外の障害にも広がることによって,うつ病の認知モデルだけでは対応しきれなくなりました。ということは,不安障害なら不安障害の,統合失調症なら統合失調症のモデルを構築し,それに沿った認知行動療法のプロトコルを構築しなければならないということなのです。

  また他の治療法に比べCBTは,その全体のプロセス自体がある決まった手順を踏むというように,ある程度誰が誰に対してCBTを実施してもそのプロセスや結果は変わらないという汎用性がありますが,そうは言ってもクライアントさんにはさまざまな人がいらっしゃいますし,うつ病や不安障害と言っても,やはり人それぞれです。うつ病のAさんが抱えているのは,あくまでも「Aさんのうつ病」であり,別のうつ病のBさんが抱えているのは,やはり「Bさんのうつ病」であって,AさんとBさんのうつ病をきちんとアセスメントしてみると,全く異なるうつ病のあり方が明確化されることもあるのです。つまり単純な「認知モデル」でクライアントさんを理解するだけでは足りないのです。その方が抱えている障害なり症状なり問題なりを,CBTのモデルに沿ってきちんとアセスメントした上で,その方に合った技法を選択し,介入をパッケージ化していくことが必要なのです。

  以上のようなことは,現場で実際にCBTを実施すると,すぐに実感されることだと思います。つまりシンプルな認知モデルで介入を進めてもうまくいかず,目の前のクライアントさんの抱えている問題の全体像をアセスメントした上で,介入を計画するというプロセスがどうしても必要なのです。・・・といったことを世界中のCBTの臨床家が気づき始め,精神病理学や異常心理学の発展とあいまって,“新世代のCBT”として集約されつつあるというのが現在の状況でしょう。

  したがって,ごく限られたうつ病患者に対して行われていたアーロン・ベックの認知療法が,以下のシンプルなプロセスによって行われていたとすると(注:ベック先生の認知療法が実際にこんなに画一的であったということではありません。)

1.うつ病の認知モデルの心理教育

2.認知再構成法(コラム法)の導入と実践

3.終結

新世代の認知療法・認知行動療法は,以下のようなプロセスによって構成されることになります。

1.CBTのモデルや進め方についての心理教育

1.CBTの基本モデルに基づく,そのクライアントさんが抱える障害,症状,問題のアセスメントと心理教育

3.そのクライアントさんとのCBTにおける目標の設定

4.設定された目標を達成するための技法選択 (単一の技法の場合もあれば,複数の場合もあり)

3.各技法の導入と実践

4.終結

  新世代CBTは,クライアントさん個人,そして障害や症状の個別性をより重視したアプローチなのです。新世代CBTとは,個人個人のクライアントさんに合わせて,その人なりの“CBTパッケージ”を作っていく営みであると考えていただければ良いでしょう。このような丁寧な進め方が,多少時間がかかっても,結局は良好な結果につながると私は確信しています。

  そして私が憂慮しているのは,このような現状を知らずに,「CBT(とくに認知療法)と言えばコラム法(認知再構成法)」という古典的な知識に基づいてCBTについて語ったり,CBTを実施してしまっている専門家が少なくないことです。(もちろん最新の知見に基づき,CBTを実施していらっしゃる尊敬すべき先生方も多くいらっしゃいます)。このような事態はしだいに改善されてくることと思われますが,過渡期である現在,過渡期であるがゆえに,CBTを必要とする患者さん,クライアントさんがこうむる迷惑を極力少なくするために,私たちはできることは何でもやっていきたいと考えています。

●今日のまとめの一言:現在の新世代CBTは,問題をアセスメントした後,クライアントさんに役立つ技法をチョイスして,パッケージを作るというプロセスそのものを言う。

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2005年5月19日 (木)

【認知療法・認知行動療法】コラムその2:新世代の認知行動療法①

  ネットで“認知療法”を検索すると,さまざまな情報を一覧できますが,いまだにアーロン・ベックが構築した古典的な認知療法ばかりが紹介されているように思われます。アーロン・ベックが認知療法を構築し始め,その理論や方法を公表したのは1960年代から1970年代にかけてですが,それから3040年以上を経た今,認知療法はかなり進化し,多くの技法が考案されたり洗練されたりすることで,さらに多くの人に役立つものになっています。現代の認知療法や認知行動療法(CBT)は,“新世代のCBT”“第二世代CBT”などと呼ばれることもあります。今日はこの“新世代のCBT”について簡単にご紹介します。

●アーロン・ベックの“認知療法”は,“古典的認知療法”

  上記のとおり,アーロン・ベックの“認知療法”は,“古典的認知療法”などと最近呼ばれることがあります。アーロン・ベックは,うつ病患者の思考が過度にネガティブであることに着目して,そのネガティブな思考,特にある場面で生じる「心のせりふ」を「自動思考」と定義しました。ベックは,クライアントさん自身が,自分のネガティブな自動思考に気づき,それをより現実的で合理的な思考へと修正する方法を編み出し,それを“認知療法”として構築したのです。

  アーロン・ベックの認知療法は,ネガティブな認知によって身動きが取れなくなってしまっている多くのうつ病患者を救いましたし,今でもこの種のクライアントさんにとっては非常に効果的な治療法・援助法だと思います。またベックが認知療法の指針として提唱した,“協同的実証主義”や“ソクラテス式対話”や“誘導による発見”といったコミュニケーションのあり方は,現在のCBTにおいてもやはり重要な原理原則です。その意味では,現代のCBTの核をなすのは,アーロン・ベックの認知療法であるのは間違いありません。したがって,ベックの認知療法が“古典的”と称されるのは,敬意を表してのことであって,決して「古典的だから(古いから)ダメだ」,ということではありません。

●認知再構成法(いわゆるコラム法)だけが認知療法ではない

  アーロン・ベックの古典的認知療法を実施するための技法が,“認知再構成法”です。認知再構成法の手順は,①ストレスを感じた状況を同定し,②そのときに生じた自動思考や気分感情を同定し,さらにそれらの強さも同定し,③自動思考の根拠や結果や反証について検討し,④かわりとなる新たな思考を案出し,⑤もともとの自動思考と気分感情の強度を再度評価する,というものです。情報量が多く,認知的にもある程度複雑な作業を必要としますので,認知再構成法は,表(コラム)などツールを用いて行うのが一般的です。この技法が“コラム法”と呼ばれることが多いのは,そのためです。

  認知再構成法(コラム法)は,技法としても洗練されており,適切な目標のもとで適切に適用されれば非常に効果の高い強力な技法です。しかしCBTが進化するなかで,さまざまな技法が開発されたり洗練されたりし,それらの技法を組み合わせて適用するのが今では一般的です。認知再構成法は,CBTのひとつの技法に過ぎないのです。(実際に私自身もクライアントさんと一緒にCBTを行いますが,認知再構成法を使わないケースも多々あります)。

しかし上にも書いたとおり,“CBT(特に認知療法)=認知再構成法(コラム法)”と誤解されているようで,私はそれがとても気になっています。「CBTを正しく世の人に知っていただきたい」,「CBTにはコラム法以外にも多くの役に立つ技法があるということを広めたい」というのが,私がこのブログを始めた動機のひとつです。私がさらに気になっているのは,精神科医や臨床心理士という専門家でさえ,“CBT=コラム法”と思い込んでいる人が多いという事実です。

たとえばあるクライアントさんが,「認知療法を受けたい」と来談された場合,“CBT=コラム法”と思い込んでいる専門家は,そのクライアントさんを十分にアセスメントすることなく,またそのクライアントさんとのCBTにおける目標を設定することもなく,いきなりコラム法をやらせてしまう,ということになりがちです。たまたまコラム法がその人に合っていれば効果が得られますが,そうではなかった場合,「なあんだ,認知療法ってたいして効かないんだな」ということで終わってしまう恐れがあります。そのクライアントさんにはコラム法ではなく,別のCBTの技法を適用すべきだったのかもしれないのに,その可能性が検討されることもなく,「自分には認知療法が合わなかった」と結論づけられてしまうとしたら,クライアントさんが気の毒ですし,誤解されたままの認知療法も気の毒です。(こういう事態になった場合の責任が専門家側にあることは,言うまでもありません)。

  残念なことに,このようなことは現実に起きています。CBTが効果的な心理療法として知名度を上げていくそのスピードに,専門家の育成が間に合っていないからです。たとえば私が所属する日本認知療法学会などでは,専門家の育成や,CBTの品質管理について,以前より真剣に議論されるようになってきています。学会でもワークショップを主催するなどして,専門家の育成を図ってはおりますが,当分,専門家不足の事態は続くと思います。

しかしCBTは必ず専門家から受けなければならないというものでもありません。本などを参考に,自分でもやろうと思えばできます。このブログでも近いうちに,専門家の指導のもとでCBTをやるとしたら,きちんとした認知行動療法家をどのように探せばよいか,ということについて書いてみたいと思っています。そのような探し方で専門家がうまく見つかればベストですが,残念ながら見つからなかった場合,「認知療法=コラム法」と誤解している専門家からコラム法を押し付けられるよりは,自分でやることを選択するほうが良いかもしれません。専門家なしで「一人認知療法」をどのように進めていくと良いかということについても,いずれこのブログで書いていく予定です。

話が脇にそれてしまいました。このコラムは次に続きます。次回は,新世代の認知行動療法とは具体的にどのようなものか,紹介する予定です。

●今日のまとめの一言: CBTは進化しつづけており,いわゆるコラム法以外にも,さまざまな有用な技法がある。しかし専門家でさえ,「認知療法=コラム法」と誤解している場合が多くみられる。

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2005年5月17日 (火)

認知療法,認知行動療法の特徴 その5

認知療法,認知行動療法(以下略してCBTと表記することも)の特徴その5は,「その4」で少し書きましたが,自分の体験などを紙に書き出すことについてです。

白紙やツールを使って,外在化する: CBTの特徴 その5

  CBTでは,何でもかんでも紙に書き出します。セラピストが次から次へと書いていく場合もあれば,書くのが好きなクライアントさんは,自分でどんどん書き出してくれるようになります。書き出すのは,文章だけではありません。図や絵も多用します。このような作業を“外在化”と言います。

  たとえば「CBTの特徴 その4」でアセスメントについて紹介しましたが,アセスメントとして聴取した内容も,必ずセラピストがクライアントさんの目の前で書き出しますし,書いたものはコピーしてクライアントさんと共有します。クライアントさんが自分でアセスメントの作業をして書いてくれる場合は,それをコピーさせてもらって,やはり同じように共有します。私がアセスメントの際に実際に使っているのは,表ではなく,循環図のようなものです。アセスメントのための5項目,①状況,②認知,③気分感情,④身体,⑤行動,の循環的な相互作用を,目で見て把握できるように工夫したものです。

私が運営しているCBTの機関では,アセスメントの際,必ずこのツールを使います。ツールに外在化することにより,セラピストはクライアントさんの体験の全体像を,クライアントさんと共有できるので,とても便利です。またクライアントさん自身も,自分が体験していることがツールに外在化されることで,それを眺めることができ,「ああ,今の自分が抱えている問題って,こういうことなんだ」と実感をもって理解されるようです。

(※私たちが使っているアセスメントツールにご興味のある方は,メールにてご連絡いただければ,ツールが紹介されている文献をお知らせするなどして,ご対応いたします。その場合恐れ入りますが,本名と所属,職種等をお知らせください。)

  ツールを使って外在化するのは,アセスメントだけではありません。たとえば,CBTにおける主要技法のひとつである“認知再構成法”(いわゆる“コラム法”)は,必ずと言っていいほど,表や図といった外在化ツールを使って実施します。認知再構成法は,習得すればさほど難しい技法ではありませんが,身につけるまでは,それなりに段階を踏む必要がありますし,扱う情報量も結構多いので,認知再構成法を,最初から頭のなかだけで行うのは,かなり大変です。

人が一度に処理できる情報量には限界があります。たくさんの情報を頭のなかだけで,あるいは会話だけで行うとなると,かなりの負担が脳にかかります。認知療法・認知行動療法(CBT)がツールを使うのは,情報を外在化することによって,脳にかかる負担を軽くしようという意味もあるのです。

他にも紙やツールに書き出す,つまり外在化する利点はいくつもありますが,一つ一つ詳しく述べるときりがないので,以下にまとめてみます。

自分の抱えている問題の全体像を,目で見て眺めることができる。

自分の抱えている問題を,距離を置いて客観視することができる。つまりメタ認知能力が発揮されやすくなる。

情報を脳のなかではなく,ツールに外在化して扱うので,脳にかかる負担が減る。

セラピストとクライアントさんは外在化されたツールを共有することができる。

外在化の作業を行うなかで,自分との対話が活性化される。(“問題となる自分”そのものが外在化されるので,“外在化される自分”と“外在化する自分”という良い意味での分裂が起き,自己内対話が発生しやすくなる。)

記録として残るので,その後の状態と比較することができる。

自分の状態を家族など第三者に伝えるとき,ツールを見せながら話せるので,便利である。

書くのが好きな人は,ツールを使った作業自体が楽しくなる。また図を描くという作業も,はまると楽しいものである。

  思いついたことをとりあえず挙げただけでも,“ツールを用いた外在化”には,多くの利点があることがわかります。CBTの本には,さまざまなツールが紹介されています。興味のある方は,そのようなツールを実際に使ってみて,外在化する効果を確かめていただきたいと思います。また,既成のツールではなく,自分仕様に作ってみるのも楽しいものです。最近ではパソコンを使って,自分に合ったツールを作って見せてくれるクライアントさんもいらっしゃいます。(私自身,最近ちょっとしたストレスがあり,新たにちょっとしたツールを作って,それで整理してみました。そのおかげで,一応そのストレス状況が多少整理でき,次の段階に進むことができました。改めてツールを使って外在化することの効果を実感しました。)

  認知療法・認知行動療法(CBT)をセラピストとして実践しようとする人にアドバイス。クライアントさんにツールの使用を勧めるのであれば,必ず自分でそのツールを使いこなせるようにしていただきたいと思います。セラピストといえども人間ですから,いろいろなストレスを感じることが日々あるでしょう。自分自身のストレスコーピングとして,どのツールをどういうときに使うと役に立つのか,どのツールのどんなところが使いやすいか,あるいは使いづらいか・・・といったことは,自分で使ってみて初めて実感できるものです。ツールを自分で使うことで,自分自身のストレスコーピングを行うことができ,さらにセラピーをより効果的にできるのであれば,それこそ一石二鳥だと思いませんか?

●今日のまとめの一言:図や文章で自分の体験を書き出すことを“外在化”と言う。外在化することで,脳に負担をかけすぎずに,CBTのいろいろな作業を行うことができるし,“外在化された自分”と対話がしやすくなる。

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2005年5月16日 (月)

【認知療法・認知行動療法】コラム:「ツッコミ小人」(@中村うさぎ)を育てよう

●メタ認知能力抜群の中村うさぎさん

  気軽にこのブログを始めたはずなのに,ついつい端くれながらも研究者の癖で,気がついたら,認知療法・認知行動療法(CBT)について系統立てて説明しようとしていました。だんだん仕事のような気がしてきたので,ちょっと気分を変え,「コラム」ということで気軽に書き込んでみようと思います。

  私は週刊文春に連載されている,中村うさぎさんのエッセイ(タイトル:さすらいの女王)の愛読者です。何が面白いかというと,エッセイに描かれているうさぎさんのキャラクターや言動や考え方はもちろんですが,うさぎさんのエッセイって極めてCBT的なんです。うさぎさんが,ハチャメチャに買い物しても,美容整形しても,ホストに入れ込んでも,人として破綻しないのは,中村さんが,自分に対して自分でCBTをやっているからだと思います。

  もちろんCBTとして自覚なさっているわけではないでしょうが,刻一刻と変化する自分の状態や自分を取り巻く状況をアセスメントして,自己調整し,なんとかギリギリのところで自分と折り合いをつけているんですね。これを「1人認知療法」と言わずして何という?というぐらい,見事にCBTをなさっているんだと思います。(専門的に言えば,メタ認知能力が非常に高いということだと思う)

  とくに最近,うさぎさんは『文春』で,「ツッコミ小人」のことを何度か書かれています。「ツッコミ小人」とは,“自分を正しく裁くために脳内に育成した小人”だそうです。うさぎさんの「ツッコミ小人」は,物書き業として他者に対して意地悪な視点を持たざるを得ないので,それとバランスを保つために,同様に意地悪な視点から自分に突っ込む小人なんだそうです。

「ツッコミ小人」かあ。・・・これこそまさに認知療法・認知行動療法(CBT)が,重視していることなんです。CBTを通じてクライアントさんが,ほどよいツッコミ小人を自分の中に飼ってくれるようになれば良いのです。「クライアントさんにとって,ほどよいツッコミ小人とは,どんな小人か。どんなツッコミ小人とだったら,うまくやっていけそうか。そんなツッコミ小人を育てるにはどうしたらいいか」ということを,セラピストとクライアントさんが一緒になって,ああだこうだ言いながら探していくのが,CBTなのです。

  だから,CBTが探したり育成したりしたいのは,自分に対して厳しいだけのツッコミ小人ではなく,状況を落ち着いて見極め,時と場合によって,優しくしてくれたり,アドバイスしてくれたり,励ましてくれたり,なぐさめてくれたり,合理的な意見を言ってくれたりするような,そんな「ほどよくナイスなツッコミ小人」なのです。

ということをセラピーで実現するためには,もちろんCBTのセラピスト自身が,自分のなかに「ほどよくナイスなツッコミ小人」を飼っている必要があります。私自身,そんなツッコミ小人をちゃんと飼えているんだろうか? ときどき自己点検して,自分のなかのツッコミ小人とおしゃべりする必要がありそうです。ちゃんと

  それにしても,「作家」というのは,すごい職業だと思います。CBTが目指していることを,「ツッコミ小人」というたった一言で過不足なく示してくれるのですから。恐るべし,中村うさぎさん。これからも目が離せません。

●今日のまとめの一言:自分に合った,そして自分をほどよく助けてくれる「ツッコミ小人」を自分のなかに育てましょう!

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認知療法,認知行動療法の特徴 その4

認知療法,認知行動療法(以下略してCBTと表記することも)の特徴その4です。

自分の体験を,状況,認知,行動,気分感情,身体,の5領域に分解して理解する: CBTの特徴 その4

  認知療法,認知行動療法(CBT)は,その名前から,【認知】と【行動】だけに焦点を当てるセラピーであると誤解される向きもありますが,実はそうではありません。CBTでは,クライアントさんが体験しているストレスの全体像を理解することを,“アセスメント”とか“事例定式化”などと呼びますが,アセスメントの際に必ず把握するのが,以下の5項目です。

①状況(その体験や問題が,どのような状況や場面において起きたのか)

②認知(そのときどんな考えやイメージが頭に浮かんだか)

③気分・感情(そのときどんな気分や感情が生じたか)

④身体(そのときどんな身体反応が生じたか)

⑤行動(そのときどんな行動を起こしたか)

  CBTでは,クライアントさんのストレスがどんなものであれ,かならず上の5項目について検討し,その方の体験の全体像をできるだけ具体的に把握しようします。このようなアセスメントがきちんと行われない限り,CBTのさまざまな技法は,たいして役に立たないと言っても過言ではありません。

CBTのセラピーのセッションでは,このアセスメント作業を一緒に行うことで,セラピストとクライアントさんは,クライアントさんの体験を具体的に理解し,共有することができます。そして,自分の体験をCBTのモデルに基づき具体的に理解すること自体が,クライアントさんにとっては助けになるようです。アセスメントを作業をするだけで,抱えている問題自体にはとくに変化や改善がみられなくても,クライアントさんの状態が良い方向に変わってくるのです。

このような現象は,“問題解決のための第一歩は,問題をよりよく理解することである”という,認知心理学の問題解決研究の知見とも合致します。(といった学問的知見を参照しなくても,自分の抱える問題や悩みを,ある程度客観的に把握するだけで,その分気持ちが楽になるという現象は,皆さんが体験的にご存知のこととは思いますが。)

 CBTにおけるアセスメントについて,具体例を挙げましょう。たとえば私は現在,歯医者に通院中です。先日も治療のためにいつもの歯医者に行き,診察台に上がり,仰向けに座りました。そのときの体験を,上記の5項目に沿って考えてみます。

①状況(その体験や問題が,どのような状況や場面において起きたのか)

  ⇒歯医者の診察台。先生が治療を始めようとしている。「痛かったら左手を挙げて合図してくださいね」と言われる。歯を削る器具の「キーン」という音が鳴り始めた。

②認知(そのときどんな考えやイメージが頭に浮かんだか)

  ⇒考え:「こわい,こわい,こわい」,「助けて」,「あまり痛くないといいな。痛くありませんように」,「痛かったら手を挙げろというが,どのくらい痛い時に挙げればいいんだろう」,「あんまり早く手を挙げたら,『弱虫』『痛みに弱い奴だ』を思われるんじゃないか」,「他の人はどうしているんだろう」,「早くここから解放されたい」。

  ⇒イメージ:左手を挙げる自分の姿。それを見て「ちっ」という感じで私を嘲笑する先生の表情。

③気分感情(そのときどんな気分や感情が生じたか)

  ⇒恐怖心。不安感。緊張感。落ち着かない感じ。

④身体(そのときどんな身体反応が生じたか)

  ⇒ドキドキする。身体が硬直する感じ。冷や汗をかく。

⑤行動(そのときどんな行動を起こしたか)

  ⇒右手の人差し指と中指の爪を,左手の甲にギュッと立てる。目を閉じて深呼吸をする。

  アセスメントをするときは,このように自分の体験を小さく分解して,できるだけ具体的に理解することが重要です。上の私の歯医者の体験そのものは,日常的でちっぽけなものですが,こういったちっぽけな体験を,①状況,②認知,③気分感情,④身体,⑤行動,の5項目に沿って把握しようとする態度を身につけることが,認知療法,認知行動療法(CBT)を進めていくうえで,非常に役立つのです。

  このようなアセスメントの作業は,ストレスを感じている真っ最中に行えると一番効果的です。ストレスを感じながらも,そういう自分をモニターするもう1つの視点が養われるからです。CBTの専門家である私は,歯医者の診察台で上のように強いストレスを感じながらも,「こういう自分をアセスメントしなくては」と考え,上のように自分の体験をその場で観察しました。その分,ほんの少しだけですが,恐怖心や不安緊張感が小さくなり,なんとかその日の治療を終えることができました。(ちなみに痛みは中程度で,左手を挙げるところまではいきませんでした。)

  しかし,ストレスを感じている真っ只中は,ふつうアセスメントどころではなく,そのストレスに巻き込まれてしまっているでしょうから,まずはストレスを体験した直後に,今の自分の体験を,①状況,②認知,③気分感情,④身体,⑤行動の5項目に基づき,振り返ってみると良いでしょう。とにかくストレスを感じたら,CBTの基本5項目に沿って考えてみる,ということ自体を習慣にすると良いのです。面白いことに,5項目に分解することで,かえって自分の体験の全体像が見えてきます。全体像が見えた分,少し嫌な気分が小さくなったり,ホッとしたりするのです。

  ところでこのようなアセスメントの作業は,ポジティブな体験に対しても行うことができます。たとえば,①状況:上司に褒められた,②認知:「ああ,良かった。頑張った甲斐があった」,③気分感情:よろこび,④身体:顔が少しだけポッと赤くなる,⑤行動:笑顔で「ありがとうございます」と言う,といった感じです。しかし上にも書いたように,アセスメントとは,“何かを体験している自分をモニターするもう1人の自分”という客観的な視点をもつということですから,その分,ポジティブな気分が小さくなってしまう可能性があります。せっかくの嬉しい気分に,わざわざ水を差すのはもったいないですよね。したがって,やはりストレスを感じているときにこそ,このようなアセスメントの作業をしてみると良いでしょう。

アセスメントは,心のなかだけで行うこともできますし,紙に書き出しながら行うことも可能です。余裕があれば書き出す方がより効果的ですが,その理由については,項を改めてまた書いてみたいと思います。

●今日のまとめの一言: 自分のストレス体験を,認知療法,認知行動療法(CBT)の5項目に分解して理解することで,かえって体験の全体像を見通すことができ,その分ストレスは軽減される。

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2005年5月12日 (木)

認知療法,認知行動療法の特徴 その3

認知療法,認知行動療法(以下略してCBTと表記することも)の特徴その3をご紹介します。今回は,セッションでのコミュニケーションのあり方についての特徴です。

●“双方向的な対話”によって進められること: CBTの特徴 その3

 双方向的な対話というのも,CBTの特徴です。双方向的対話というと何だか難しそうですが,要はクライアントさんもセラピストも積極的に発言し,互いにやりとりをするということです。「え? そんなのあたりまえじゃないの?」と思われる方がいらっしゃるかもしれませんが,実は双方向的な対話というのは,日本のセラピーやカウンセリングでは,それほど当たり前ではありません。

 日本で行なわれている従来のカウンセリング(特に臨床心理士など心理系のカウンセラー,セラピストが行なうもの)は,来談者中心療法という理論と方法論に基づいて行なわれている場合が多く,来談者中心療法で推奨しているコミュニケーションとは,簡単に言うと,クライアントさんの話をセラピストは傾聴し,受容共感するというものです。具体的には,セラピストはほとんど話しません。クライアントさんの話を,ひたすらじっくりと聴き,それを受け止めるというやり方です。そのようなやり方が悪いというわけではありません。クライアントさんのなかには,セラピストが傾聴しているだけで,自分で語り,語りながら自分をよりよく理解し,いろいろと気づき,気づいたことを自分で統合していくことのできる人もいます。そういう方の場合,来談者中心療法型のコミュニケーションで,セラピーはどんどん展開いきます。でも,それはごく一部のクライアントさんに限られた現象だと私は思います。

  またもし私がセラピーを受けるのであれば,カウンセラーにひたすら傾聴されるのは嫌だなあと,正直言って思います。話はきちんと聞いてほしいですが,それに対するコメントやアドバイスもちゃんとしてほしいのです。

 認知療法,認知行動療法の場合は,一方的な「話す」・「聴く」の関係ではなく,互いに「話し合う」,「聞き合う」という活発なやりとりが行なわれます。つまり「対話」が行なわれるのです。といっても,セラピストは,自分の個人的なことをクライアントさんに話すのではなく(当たり前ですけど),「ソクラテス式質問」といった質問をしたり,「心理教育」と呼ばれる情報提供を行なったりすることが大半です。さらにクライアントさんの許可を得た上で,セラピスト自身の意見や提案も積極的にクライアントさんに伝えていきます。ですからCBTでのやりとりは,一方的ではなく双方向的で,非常に活発な感じになるのです。

もちろんそのような対話を導入し,展開していく責任は,セラピストにあります。クライアントさんは,セラピストと話をしているうちに,知らず知らずの間に自分がセラピストと活発なやりとりをしていることに気づくのです。そしてこのような対話を繰り返すこと自体が,クライアントさんが元気になっていくための要因となるのです。

(余談ですが,以前,臨床心理士として勤務していたクリニックでは私以外のセラピストは“来談者中心療法”的なカウンセリングを行っていました。カウンセリングの内容は隣室や廊下まで聞こえることはなかったのですが,笑い声や話し声などは何となく面接室の外にも伝わるような作りになっていました。よくそのクリニックのスタッフに言われたのは,私の面接日だけ,面接室でのやりとりがやけに明るい,笑い声なども聞こえてきて楽しそう,ということでした。それは私自身もよく実感することがあります。CBTのセッションは,楽しい雰囲気を作り出すようです。)

  なぜこのような双方的な対話が,クライアントさんの援助につながるのでしょうか? 私が思うに,CBTで交わされるクライアントさんとセラピストの対話は,適度に受容的で適度にポジティブで適度に生産的です。クライアントさんは,そのようなやりとりをセラピストとの対話で繰り返すうちに(二人対話),次第に適度に受容的で適度にポジティブで適度に生産的なやりとりを,自分自身の頭のなかで出来るようになるのだと思います(一人対話)。これまではネガティブ思考にとらわれていたクライアントさんが,セラピストとのほどよい二人対話をモデルにして,今度はほどほどにポジティブな一人対話ができるようになるのです。

以上の話をまとめてみます。

1段階(CBT開始前):クライアントさんの中では,“ネガティブなぐるぐる思考”が続き,ストレスから抜けられない。

2段階(CBT実施中):セラピストとクライアントさんは,“ほどほどに受容的でポジティブで生産的な二人対話”を繰り返すうちに,ストレスに上手に対処できるようになる。

3段階(CBT実施後):クライアントさんの中で,“ほどほどに受容的でポジティブで生産的な一人対話”が行われるようになり,一人で上手にストレス対処ができる。

以上が認知療法,認知行動療法(CBT)の特徴その3でした。最後に,一人でCBTをおやりになる方にアドバイスです。自分を二つのパートに分け,自分自身と対話するようにCBTの学習を進めていきましょう。一人が“セラピストである自分”,もう一人が“これまでのネガティブな自分”です。セラピストである自分は,もう一人の自分が,ほどほどに受容的で,ほどほどにポジティブで,ほどほどに生産的になれるよう,辛抱強くやさしく語りかけてあげましょう。はじめはわざとらしく感じるかもしれませんが,気にせずそのような対話を続けてみましょう。続けるうちに,自分にやさしい一人対話が少しずつできるようになり,結果的にストレス対処が上手にできるようになるでしょう。

今日のまとめの一言: 認知療法,認知行動療法において,セラピストとクライアントは,ほどほどに受容的でポジティブで生産的な二人対話を活発に行う。セラピーが進むにつれ,クライアントは同じような対話を一人でできるようになる。

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2005年5月10日 (火)

認知療法,認知行動療法の特徴 その2

しばらくは,認知療法,認知行動療法(以下略してCBTと表記することも)の特徴というテーマで,あれこれと書いていきたいと思います。

●個人の自助力(セルフヘルプの力)を信頼すること: CBTの特徴 その2

 認知療法,認知行動療法(CBT)の特徴として,人が自分自身をよりよく助ける能力(“自助力”とか“セルフヘルプの力”と呼びます)を,徹底的に信じるということが挙げられます。

  人間の自助力に信頼をおくセラピーはCBTだけではありませんが(CBT以外にも,“ブリーフセラピー”など新世代のセラピーは,自助力を大いに信じるアプローチが多いです),なかでもCBTに特徴的なのは,「人は自分で自分をよりよく助けることができる」ということを,最初からクライアントさんにはっきりと伝えるということでしょう。

  セラピーを受けに来たクライアントさんの多くは,落ち込んでいたり,不安に巻き込まれていたりして参ってしまっています。(参っていない人が,わざわざセラピーを受けに来ることはほとんどありません。)私もそうですが,人は参っていると,「ああ,やっぱり自分はダメなんだ」とか,「生きていてもいいことなんかない」とか,「もうどうすればよいのか,私にはわからない」とか,とにかく非常に弱気になってしまうものです。そういうクライアントさんに対して,CBTのセラピストは,「誰にでも自助力というのがあります。あなたにももちろんあります。CBTは,あなたの自助力の回復や増進のお手伝いをするセラピーなんですよ」とはっきりと伝えるのです。それだけで少し救われたように思うクライアントさんも多いようです。

  ところで,クライアントさんに「あなたの自助力を伸ばしましょう」と伝えるには,セラピスト自身が人間のセルフヘルプの力を心から信頼していることが必要です。それにはある程度の臨床経験が必要だと私は考えます。セラピスト自身がそれまでの人生経験で“自助力に対する信頼”を培ってきた場合は,経験がなくても大丈夫なのかもしれませんが,少なくとも私はそうではありませんでした。臨床経験を重ね,多くのクライアントさんと関わらせていただいた結果,「人間はどんなに苦しんでいても,時がたち,あれこれ工夫をしていれば,とにかく何とかなるものなんだなあ」というふうに思えるようになったのです。「人には自助力があり,それを信じていい」ということを,私は多くのクライアントさんに教えていただいたのです。

(余談ですが,経験の少ないセラピストにスーパーバイザーが必要なのは,このことと関係があると私は考えています。スーパーバイザーの役目の1つは,新米セラピストがクライアントの自助力を信じられるよう,力づけてあげることだと思います。私自身,とくに初心者のうちは,今も敬愛する某師匠にどれだけ助けていただいたことか。師匠に「これこれこうだから,大丈夫だよ」と言われると,本当に安心するものです。)

  さて上に書いたように,人はそのときどんなにひどく参ってしまっていても,時がたち,いろんな工夫を続けていれば,そのうちに何とかなるものです。嬉しいことがいつまでも続かないのと同じように,苦しい状況や苦しい気持ちも,状況が変わったり,何らかの工夫が奏効したり,あるいは何か別の出来事が起きたりして,いつかは変わっていくものです。その際一番重要なファクターは,間違いなく“時間の経過”だと思います。セラピーなど受けなくても,時間が経過するうちに,どんなに苦しい状況でも何とかなっていくものです。しかし,その“時間の経過”を待つというのがあまりにもつらい,できるだけ早く今の状況から脱け出したい,という方には,認知療法,認知行動療法(CBT)のような問題解決型で人の自助力を信じるタイプのセラピーを,1つの方法としてお勧めします。

  苦しい状況や苦しい気持ちというのは,すなわちストレスをたくさん受けているということになります。CBTでは,自助(セルフヘルプ)のための考え方とスキルをクライアントさんに学んでもらうセラピーです。うつ病の方にCBTを実施すると再発率が低くなることが知られていますが,これはCBTを通じて,クライアントさんの自助力が回復・向上するからでしょう。CBTにおける考え方やスキルを身につけたからといって,生きていくうえでのストレスはなくなるわけではありませんが,CBTを受けたクライアントさんの多くが,終結時には,「自分でも何とかできそうだと思えてきた」「いろいろ大変だけど,できる範囲で対処すればいいんだということがわかった」とおっしゃいます。これらの言葉からも,クライアントさん自身が自助力を伸ばし,自分の力にふたたび信頼が置けるようになったのだということが,おわかりいただけるかと思います。

  最後に。CBTは本などを参考にして,一人でもできるセラピーです。セラピストなしでCBTを行う場合は,ぜひこの「自助力を信じる」ということを忘れずに,挑戦してみてください。その際,無理やり「大丈夫」と思い込む必要はありません。とりあえず,「誰にでも自分で自分を助ける力というのがあるらしい。だったら自分にもあるかもしれない。とりあえずそう考えてみることにしよう」というふうに思いながら,CBTの練習をしていただければと思います。

●今日のまとめの一言:認知療法,認知行動療法は人間の“自助力”を信頼し,それを積極的にクライアントに伝えていくセラピーである。

 

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2005年5月 9日 (月)

認知療法,認知行動療法の特徴 その1

【認知療法,認知行動療法の特徴】

  セラピーやカウンセリングには様々な理論や手法があります。はっきり言って,玉石混交です。私から見れば「怪しい」ものもたくさんありますが,とりあえずは「その人に役立つ安全な理論や手法であればよい」と言うことができるでしょう。(セラピーには学問的な裏づけが必要だと私個人は考えますが,ユーザーさんにしてみれば,裏づけがあろうがなかろうが「安全で役に立てば良い」ということになりますでしょうか。)

  ここでは,認知療法,認知行動療法(以下略してCBTと表記)がどんな理論に基づき,どんな技法があり,どんな問題や症状に効果があるのかといった,CBTの特徴について紹介していきます。

●“問題解決型”のセラピーであること: CBTの特徴 その1

  認知療法,認知行動療法(CBT)は,問題解決型のセラピーです。“問題解決”というと何か大変な感じがするかもしれませんが,実は私たちは日々,さまざまな問題を解決しながら生きている存在です。その中には大きな問題もあれば,小さな問題もありますが,CBTで重視するのは,できるだけ問題の単位を小さくして,小さな問題解決を丁寧に積み重ねようという考え方です。小さな問題解決を積み重ねていくことで,毎日,できるだけ気分よく過ごし,気分よく人とかかわり,気分よく仕事や勉強や家事などをこなそうというのです。

  「セラピーやカウンセリングで“問題解決”をめざすのは,当たり前じゃないか」と思う人もいるかもしれませんが,実はそうでもありません。私が運営するCBTの機関には,別のカウンセリングを何年も受けていた人が,「認知療法がいいらしい」「認知行動療法を受けてみたい」と言って来所される人が少なからずいらっしゃいますが,そういう方々が口をそろえておっしゃるのは,「(前のカウンセリングでは)話は聞いてくれたけれど,何も変わらなかった」「話をするだけで,何も解決することができなかった」ということです。

  話をするだけのセラピーが悪いというつもりは全くありませんが(それだけで楽になる人,回復する人も多くいらっしゃることも事実ですから),何らかの問題や悩みや症状を「何とか改善したい」「少しでもよい方向に持っていきたい」という方には,やはり問題解決型のセラピーをお勧めします。認知療法,認知行動療法(CBT)だけが問題解決型のセラピーではありませんが,心理学の問題解決の理論に基づき,もっとも体系的な理論と方法論を有しているのは,やはりCBTだと私は思っています。

  CBTでは,「今,何について困っているのか」ということを,CBTのモデルに基づいて理解し,それを“解決を目指せそうな問題”として表現しなおし,それらの問題状況を改善するために,どんな目標を立てたらよいか,という視点から具体的で現実的な目標を設定し,その目標に到達すつためにさまざまな技法を使って工夫を試みます。そしてそれらの工夫がどの程度効果があったのか,どの程度目標に近づいたのか,適宜確認しながら進めていきます。そして最初に立てた目標が達成され,問題状況が満足のいく程度に改善されれば,一連のCBTのプロセスは終了となります。

  つまり,CBTとは以下の流れをたどるセラピーなのです。そしてこの流れそのものが問題解決のプロセスであると言えるでしょう。

① 問題の全体像を理解する
② “解決を目指せそうな問題”として表現しなおす
③ 具体的で現実的な目標を設定する
④ 目標達成に向けて,さまざまな技法を用いて工夫を試みる
⑤ 工夫の結果を確認し,目標が達成されたら終了する

  重要なのは,CBTを通じて,ユーザーさん(クライアントさん)の問題ができるだけ解決されることと同時に,このような問題解決型のセラピーをクライアントさんが体験することで,クライアントさん自身の問題解決力が伸びるということです。

  セラピーやカウンセリングには,必ず終わりがあるものです。終わった後,クライアントさん自身が,日々出会う問題を解決しようとする際に,これまでよりも上手に工夫できるようになることがとても重要だと思います。そうすれば,逆説的ですが,二度とセラピーを受けずにすむようになるわけです。貴重な時間やお金も,セラピー以外の自分の好きなことに使うことができます。

以上長くなりましたが,CBTの特徴のその1として,“問題解決”についてまとめてみました。

●今日のまとめの一言:認知療法,認知行動療法の実践を通じて,問題解決力を伸ばすことができる。

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2005年5月 7日 (土)

認知療法,認知行動療法をストレスコーピングに活かす

  認知療法,認知行動療法(Cognitive Behavior Therapy;以下CBTと記載します)とは,最近非常に注目されている心理療法,カウンセリングのアプローチです。私は臨床心理士として現場でCBTを実践し,さらに心理学者としてCBTの研究にも携わっている者ですが,CBTのエッセンスを,治療やカウンセリングといった専門的なエリアだけにとどめておくのがもったいないと,常々考えています。病気や問題を抱えた人だけでなく,私たちがよりよくストレスとつきあいながら(それを“ストレスコーピング”と言います),日々の暮らしを楽しむために,CBTのエッセンスを活用したいし,その活用法を広めていきたいと思い,このブログを始めることにしました。

  というわけで,このブログでは,実証的な裏づけのある専門的情報というよりは,CBTの発想をストレスコーピングによりよく活かすために,私が日々考えたこと,思いついたことを雑感的に記していきたいと思っています。

  論文や原稿となると,内容や構成にとても気を使い,CBTについてのびのびと語れないという制約がありますが(当然のことですけど),ここではCBTやストレスコーピングについて,あえて私見を自由に語ってみたいと思います。強いて言えば,「私見を自由に語る」ということを制約にして,書いていくということです。

  どんな領域の専門家もそうだと思いますが,日々自分の専門分野(つまりCBT)について学び,それを実践していると,映画を観ても,楽しみのために本を読んでも,テレビや新聞でニュースを見ても,人と話していても,それをCBTという視点からとらえ,小さな発見をしたり,新たな疑問が生じたりするということを,つねに経験しています。そういったCBTについての小さな発見や疑問を,つれづれにこのブログに記載していくつもりです。

(が,「ブログのこともよく知らないのに,思いつきでこんなこと始めていいのか!?」という自動思考が今,ガンガン生じています。しかし,とりあえずやってみます!)

●今日のまとめの一言:誰でも,認知療法,認知行動療法のエッセンスを,ストレスコーピングに役立てることができる。

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