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2005年5月16日 (月)

認知療法,認知行動療法の特徴 その4

認知療法,認知行動療法(以下略してCBTと表記することも)の特徴その4です。

自分の体験を,状況,認知,行動,気分感情,身体,の5領域に分解して理解する: CBTの特徴 その4

  認知療法,認知行動療法(CBT)は,その名前から,【認知】と【行動】だけに焦点を当てるセラピーであると誤解される向きもありますが,実はそうではありません。CBTでは,クライアントさんが体験しているストレスの全体像を理解することを,“アセスメント”とか“事例定式化”などと呼びますが,アセスメントの際に必ず把握するのが,以下の5項目です。

①状況(その体験や問題が,どのような状況や場面において起きたのか)

②認知(そのときどんな考えやイメージが頭に浮かんだか)

③気分・感情(そのときどんな気分や感情が生じたか)

④身体(そのときどんな身体反応が生じたか)

⑤行動(そのときどんな行動を起こしたか)

  CBTでは,クライアントさんのストレスがどんなものであれ,かならず上の5項目について検討し,その方の体験の全体像をできるだけ具体的に把握しようします。このようなアセスメントがきちんと行われない限り,CBTのさまざまな技法は,たいして役に立たないと言っても過言ではありません。

CBTのセラピーのセッションでは,このアセスメント作業を一緒に行うことで,セラピストとクライアントさんは,クライアントさんの体験を具体的に理解し,共有することができます。そして,自分の体験をCBTのモデルに基づき具体的に理解すること自体が,クライアントさんにとっては助けになるようです。アセスメントを作業をするだけで,抱えている問題自体にはとくに変化や改善がみられなくても,クライアントさんの状態が良い方向に変わってくるのです。

このような現象は,“問題解決のための第一歩は,問題をよりよく理解することである”という,認知心理学の問題解決研究の知見とも合致します。(といった学問的知見を参照しなくても,自分の抱える問題や悩みを,ある程度客観的に把握するだけで,その分気持ちが楽になるという現象は,皆さんが体験的にご存知のこととは思いますが。)

 CBTにおけるアセスメントについて,具体例を挙げましょう。たとえば私は現在,歯医者に通院中です。先日も治療のためにいつもの歯医者に行き,診察台に上がり,仰向けに座りました。そのときの体験を,上記の5項目に沿って考えてみます。

①状況(その体験や問題が,どのような状況や場面において起きたのか)

  ⇒歯医者の診察台。先生が治療を始めようとしている。「痛かったら左手を挙げて合図してくださいね」と言われる。歯を削る器具の「キーン」という音が鳴り始めた。

②認知(そのときどんな考えやイメージが頭に浮かんだか)

  ⇒考え:「こわい,こわい,こわい」,「助けて」,「あまり痛くないといいな。痛くありませんように」,「痛かったら手を挙げろというが,どのくらい痛い時に挙げればいいんだろう」,「あんまり早く手を挙げたら,『弱虫』『痛みに弱い奴だ』を思われるんじゃないか」,「他の人はどうしているんだろう」,「早くここから解放されたい」。

  ⇒イメージ:左手を挙げる自分の姿。それを見て「ちっ」という感じで私を嘲笑する先生の表情。

③気分感情(そのときどんな気分や感情が生じたか)

  ⇒恐怖心。不安感。緊張感。落ち着かない感じ。

④身体(そのときどんな身体反応が生じたか)

  ⇒ドキドキする。身体が硬直する感じ。冷や汗をかく。

⑤行動(そのときどんな行動を起こしたか)

  ⇒右手の人差し指と中指の爪を,左手の甲にギュッと立てる。目を閉じて深呼吸をする。

  アセスメントをするときは,このように自分の体験を小さく分解して,できるだけ具体的に理解することが重要です。上の私の歯医者の体験そのものは,日常的でちっぽけなものですが,こういったちっぽけな体験を,①状況,②認知,③気分感情,④身体,⑤行動,の5項目に沿って把握しようとする態度を身につけることが,認知療法,認知行動療法(CBT)を進めていくうえで,非常に役立つのです。

  このようなアセスメントの作業は,ストレスを感じている真っ最中に行えると一番効果的です。ストレスを感じながらも,そういう自分をモニターするもう1つの視点が養われるからです。CBTの専門家である私は,歯医者の診察台で上のように強いストレスを感じながらも,「こういう自分をアセスメントしなくては」と考え,上のように自分の体験をその場で観察しました。その分,ほんの少しだけですが,恐怖心や不安緊張感が小さくなり,なんとかその日の治療を終えることができました。(ちなみに痛みは中程度で,左手を挙げるところまではいきませんでした。)

  しかし,ストレスを感じている真っ只中は,ふつうアセスメントどころではなく,そのストレスに巻き込まれてしまっているでしょうから,まずはストレスを体験した直後に,今の自分の体験を,①状況,②認知,③気分感情,④身体,⑤行動の5項目に基づき,振り返ってみると良いでしょう。とにかくストレスを感じたら,CBTの基本5項目に沿って考えてみる,ということ自体を習慣にすると良いのです。面白いことに,5項目に分解することで,かえって自分の体験の全体像が見えてきます。全体像が見えた分,少し嫌な気分が小さくなったり,ホッとしたりするのです。

  ところでこのようなアセスメントの作業は,ポジティブな体験に対しても行うことができます。たとえば,①状況:上司に褒められた,②認知:「ああ,良かった。頑張った甲斐があった」,③気分感情:よろこび,④身体:顔が少しだけポッと赤くなる,⑤行動:笑顔で「ありがとうございます」と言う,といった感じです。しかし上にも書いたように,アセスメントとは,“何かを体験している自分をモニターするもう1人の自分”という客観的な視点をもつということですから,その分,ポジティブな気分が小さくなってしまう可能性があります。せっかくの嬉しい気分に,わざわざ水を差すのはもったいないですよね。したがって,やはりストレスを感じているときにこそ,このようなアセスメントの作業をしてみると良いでしょう。

アセスメントは,心のなかだけで行うこともできますし,紙に書き出しながら行うことも可能です。余裕があれば書き出す方がより効果的ですが,その理由については,項を改めてまた書いてみたいと思います。

●今日のまとめの一言: 自分のストレス体験を,認知療法,認知行動療法(CBT)の5項目に分解して理解することで,かえって体験の全体像を見通すことができ,その分ストレスは軽減される。

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